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【2025年最新】時間外手当の計算方法を徹底解説!割増率や未払い相談先も網羅
目次
「自分の残業代は正しく計算されている?」「給与明細を見ても、時間外手当が適正なのかわからない」そんな悩みを抱えていませんか。
時間外手当は、労働基準法で定められた労働者の正当な権利ですが、その計算方法は複雑です。この記事では、時間外手当の基本的な定義から、割増率を用いた正しい計算方法、深夜や休日労働といったパターン別の計算シミュレーションまで、誰にでも分かるように徹底解説します。
さらに、管理職や固定残業代制(みなし残業)といった特殊なケースや、未払いが発生した際の請求方法・相談窓口まで網羅的に紹介。この記事を最後まで読めば、ご自身の時間外手当を正確に計算できるようになり、万が一のトラブルにも対処できる知識が身につきます。
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1. 時間外手当とは?法律上の定義と残業代との関係

「時間外手当」と「残業代」、これらは日常的によく使われる言葉ですが、その意味を正確に理解しているでしょうか。両者は混同されがちですが、法律上の定義は異なります。給与計算を正しく行い、また、自身の労働に対する正当な対価を得るためには、これらの言葉の定義と関係性を理解しておくことが非常に重要です。
この章では、時間外手当の基本的な知識について、法律上の定義からわかりやすく解説します。
1.1 労働基準法で定められた割増賃金のこと
時間外手当とは、労働基準法第37条で定められた「割増賃金」の一種です。 具体的には、法律で定められた労働時間の上限を超えて労働した場合に、通常の賃金に加えて支払われる手当のことを指します。
一方、「残業代」は、会社が定めた所定労働時間を超えて働いた場合に支払われる賃金の一般的な呼び方であり、法律用語ではありません。 つまり、残業代という大きな括りの中に、法律で割増が義務付けられている「時間外手当」が含まれる、と理解すると分かりやすいでしょう。
労働基準法で定められている割増賃金には、時間外手当の他に、法定休日に労働した場合の「休日手当」と、深夜(原則として午後10時から午前5時まで)に労働した場合の「深夜手当」があります。
1.2 「法定労働時間」を超えた労働が対象
時間外手当(割増賃金)の支払対象となるのは、「法定労働時間」を超えた労働です。 法定労働時間とは、労働基準法第32条によって定められた労働時間の上限のことで、原則として「1日8時間・1週40時間」とされています。 企業は、この時間を超えて従業員を労働させる場合、36協定(サブロク協定)を締結し、労働基準監督署へ届け出た上で、割増賃金を支払わなければなりません。
ここで、「所定労働時間」との違いを理解しておくことが重要です。所定労働時間とは、企業が就業規則や雇用契約書で独自に定める労働時間のことで、法定労働時間の範囲内で設定されます。 例えば、ある会社の所定労働時間が7時間の場合、1時間の残業をしても実労働時間は8時間となり、法定労働時間の範囲内に収まります。この場合、割増賃金の支払い義務は法律上発生しません。
1.3 法定内残業と法定外残業の違い
残業は、その性質によって「法定内残業」と「法定外残業」の2種類に区別されます。 この違いを理解することが、時間外手当を正しく把握する鍵となります。
- 法定内残業
所定労働時間を超えているものの、法定労働時間(1日8時間・週40時間)の範囲内に収まる残業のことです。 例えば、所定労働時間が7時間の会社で8時間働いた場合、1時間の残業は法定内残業となります。 この場合、法律上の割増賃金の支払い義務はありませんが、通常の労働時間分の賃金は支払う必要があります。 ただし、会社の就業規則などで別途手当を支給すると定められている場合は、その規定に従います。 - 法定外残業
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて行われた残業のことです。 こちらが労働基準法上の「時間外労働」にあたり、会社は通常の賃金に対して25%以上の割増賃金(時間外手当)を支払う義務があります。
これらの違いをまとめると、以下の表のようになります。
| 項目 | 法定内残業 | 法定外残業(時間外労働) |
|---|---|---|
| 労働時間の定義 | 所定労働時間を超え、法定労働時間内の労働 | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた労働 |
| 割増賃金の支払義務 | 法律上の義務はなし(通常の賃金は発生) | 法律上の義務あり(25%以上) |
| 根拠法 | (就業規則等による) | 労働基準法 第37条 |
2. あなたの時間外手当はいくら?割増率と計算式をマスターしよう

「残業したはずなのに、思ったより給料が増えていない…」と感じたことはありませんか?それは、時間外手当の計算方法を正しく理解できていないからかもしれません。この章では、ご自身の時間外手当がいくらになるのかを正確に把握できるよう、計算の基本から具体的なシミュレーションまで、分かりやすく解説します。
2.1 時間外手当の基本計算式
時間外手当の金額は、法律で定められた以下の式で計算されます。この基本的な計算式を覚えておけば、給与明細の残業代が正しいかどうかの目安になります。
時間外手当 = 1時間あたりの賃金 × 時間外労働時間 × 割増率
この3つの要素、「1時間あたりの賃金」「時間外労働時間」「割増率」をそれぞれ正確に把握することが、正しい時間外手当を計算するための第一歩です。
2.2 労働の種類別!割増賃金率の一覧表
時間外手当の計算で特に重要なのが「割増率」です。割増率は、どのような状況で労働したかによって変動します。労働基準法で定められている割増率は以下の通りです。 特に、時間外労働と深夜労働が重なる場合など、複数の条件が適用されるケースでは割増率が合算されるため注意が必要です。
| 労働の種類 | 条件 | 割増率 |
|---|---|---|
| 法定時間外労働 | 1日8時間・週40時間を超えた労働 | 25%以上 |
| 法定時間外労働(月60時間超) | 1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた部分(※) | 50%以上 |
| 深夜労働 | 午後10時~午前5時の間の労働 | 25%以上 |
| 法定休日労働 | 法律で定められた週1日または4週4日の休日の労働 | 35%以上 |
| 時間外労働 + 深夜労働 | 法定時間外労働が深夜の時間帯に及んだ場合 | 50%以上 (25% + 25%) |
| 時間外労働(月60時間超) + 深夜労働 | 月60時間超の時間外労働が深夜の時間帯に及んだ場合 | 75%以上 (50% + 25%) |
| 法定休日労働 + 深夜労働 | 法定休日の労働が深夜の時間帯に及んだ場合 | 60%以上 (35% + 25%) |
(※)月60時間超の法定時間外労働に対する50%以上の割増率は、2023年4月1日から中小企業にも適用されています。
2.3 計算の基礎となる「1時間あたりの賃金」の求め方
時間外手当を計算する上で、まず自分の「1時間あたりの賃金」を知る必要があります。月給制の場合、以下の計算式で算出します。
1時間あたりの賃金 = 基礎となる月給 ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間
「1ヶ月の平均所定労働時間」は、会社の就業規則などで定められた年間の所定労働時間を12ヶ月で割ることで算出できます。計算式は以下の通りです。
1ヶ月の平均所定労働時間 = (365日 – 年間休日数) × 1日の所定労働時間 ÷ 12ヶ月
2.3.1 月給から除外すべき手当に注意
計算の基礎となる月給には、すべての手当が含まれるわけではありません。労働基準法では、労働との直接的な関係が薄く、個人的な事情に基づいて支払われる以下の手当は、割増賃金の計算基礎から除外すると定められています。 これらが給与に含まれている場合は、月給の総額から差し引いて計算する必要があります。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金(結婚手当など)
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
ただし、これらの名称の手当であっても、例えば住宅手当が全従業員に一律で支払われる場合など、実質的に労働の対価とみなされる場合は、除外せずに計算に含める必要があります。
2.4 具体例でわかる!パターン別計算シミュレーション
それでは、具体的なモデルケースを使って、実際に時間外手当を計算してみましょう。以下の条件でシミュレーションを行います。
- 基礎となる月給:26万円(除外すべき手当は含まず)
- 1ヶ月の平均所定労働時間:160時間
- 1日の所定労働時間:8時間(午前9時~午後6時、休憩1時間)
- 休日:土日祝(法定休日は日曜日と仮定)
まず、1時間あたりの賃金を計算します。
260,000円 ÷ 160時間 = 1,625円
2.4.1 定時後に2時間残業した場合
ある日に、定時の午後6時から午後8時まで2時間の残業をしたケースです。これは法定時間外労働にあたるため、割増率は25%となります。
計算式:1,625円 × 2時間 × 1.25 = 4,062.5円
この場合、4,063円(1円未満の端数は四捨五入)の時間外手当が支払われます。
2.4.2 深夜0時まで残業した場合
ある日に、定時の午後6時から深夜0時まで、合計6時間の残業をしたケースです。この場合、午後10時までの4時間は通常の時間外労働、午後10時から0時までの2時間は「時間外労働」かつ「深夜労働」となります。
- 午後6時~午後10時(4時間)の時間外手当
計算式:1,625円 × 4時間 × 1.25 = 8,125円 - 午後10時~午前0時(2時間)の時間外・深夜手当
割増率は時間外(25%)+深夜(25%)で50%となります。
計算式:1,625円 × 2時間 × 1.50 = 4,875円
合計:8,125円 + 4,875円 = 13,000円
この日の時間外手当は合計で13,000円となります。
2.4.3 法定休日に8時間勤務した場合
法定休日である日曜日に、午前9時から午後6時まで8時間勤務したケースです(休憩1時間)。法定休日の労働には、35%の割増率が適用されます。
計算式:1,625円 × 8時間 × 1.35 = 17,550円
この場合、17,550円の休日労働手当が支払われます。なお、法定休日の労働には時間外労働という概念がないため、1日8時間を超えても割増率がさらに加算されることはありません。 ただし、法定休日の労働が深夜に及んだ場合は、休日労働の割増率35%に深夜労働の割増率25%が加算されます。
3. 【ケース別】時間外手-当の支払われ方と注意点

時間外手当の計算は、すべての労働者に一律に適用されるわけではありません。働き方や役職によっては、労働時間の考え方や手当の支払われ方が特殊なケースがあります。ここでは、管理職や固定残業代制、裁量労働制など、それぞれのケースにおける時間外手当の扱いや注意点を詳しく解説します。
3.1 管理職は時間外手当の対象外って本当?
労働基準法第41条では、「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)については、労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されないと定められています。 このため、管理監督者に該当する場合、原則として時間外手当(残業代)や休日手当は支払われません。
しかし、重要な注意点として、この規定は深夜労働(原則として午後10時から午前5時までの労働)には適用されません。 したがって、管理監督者であっても深夜労働を行った場合には、深夜割増賃金(25%以上)を請求する権利があります。
3.1.1 「名ばかり管理職」の問題点
「管理職」という肩書がついていれば、誰でも時間外手当の対象外になるわけではありません。労働基準法上の「管理監督者」と認められるためには、役職名だけでなく、実態として以下の基準を総合的に満たす必要があります。
- 職務内容、責任と権限:経営者のような立場で、経営方針の決定に関与したり、部下の労務管理(採用、評価、指示など)について重要な権限を持っていたりすること。
- 勤務態様:出退勤時間などを自分で自由に決められる裁量があること。タイムカードで厳格に管理されていたり、遅刻や早退で減給されたりする場合は、管理監督者とは言えません。
- 賃金等の待遇:その地位にふさわしい高い報酬(基本給、役職手当など)が支払われており、時間外手当がなくても不利益にならない待遇を受けていること。
これらの要件を満たさず、十分な権限や待遇がないにもかかわらず、肩書だけが管理職で時間外手当が支払われないケースは「名ばかり管理職」と呼ばれ、違法となる可能性があります。 自身が名ばかり管理職に該当すると思われる場合は、未払いの時間外手当を請求できる可能性があります。
3.2 固定残業代制(みなし残業代)を超えたらどうなる?
固定残業代制(みなし残業代制)とは、実際の残業時間の有無にかかわらず、あらかじめ給与に一定時間分の時間外手当を含めて支払う制度です。 例えば、「月20時間分の固定残業代として〇〇円を支給する」といった形で運用されます。
この制度で最も重要な点は、定められた固定残業時間を超えて残業した場合、会社はその超過分の時間外手当を追加で支払わなければならないということです。 「固定残業代を払っているから、いくら残業させても追加の支払いは不要」というのは誤りであり、違法です。
また、固定残業代制が有効と認められるためには、雇用契約書や就業規則において、以下の点が明確に示されている必要があります。
- 通常の賃金部分と固定残業代部分が明確に区別されていること
- 固定残業代が何時間分の時間外労働に相当するのかが明記されていること
- 固定残業時間を超えた分については、割増賃金を別途支払う旨が記載されていること
3.3 裁量労働制やフレックスタイム制における時間外手当
労働時間の管理が特殊な裁量労働制やフレックスタイム制においても、時間外手当が発生するケースがあります。
裁量労働制の場合
裁量労働制は、実際の労働時間にかかわらず、労使であらかじめ定めた時間(みなし労働時間)働いたとみなす制度です。 例えば、みなし労働時間を1日8時間と定めた場合、実労働時間が6時間でも10時間でも8時間働いたと扱われます。
ただし、この「みなし労働時間」が法定労働時間(1日8時間)を超えて設定されている場合は、その超過分が時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要です。 例えば、みなし労働時間を9時間に設定した場合、1時間分の時間外手当が毎日発生します。 また、裁量労働制であっても、休日労働や深夜労働を行った場合は、別途割増賃金が支払われなければなりません。
フレックスタイム制の場合
フレックスタイム制は、労働者が日々の始業・終業時刻を自由に決められる制度です。 この制度では、「清算期間」(最長3ヶ月)という単位で労働時間を管理します。
時間外手当は、日ごとではなく、この清算期間における実労働時間の合計が「法定労働時間の総枠」を超えた場合に発生します。 法定労働時間の総枠は、「(清算期間の暦日数 ÷ 7日)× 40時間」で計算されます。この総枠を超えた時間が時間外労働となり、割増賃金の対象となります。
3.4 パートやアルバイトでも時間外手当は発生する
時間外手当に関する法律(労働基準法)は、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトなど、すべての労働者に適用されます。 したがって、パートやアルバイトであっても、法定労働時間である「1日8時間・週40時間」を超えて働いた場合には、時間外手当(25%以上の割増賃金)が支払われなければなりません。
例えば、時給1,200円のアルバイトが1日に9時間働いた場合、法定労働時間を超える1時間については、1,200円 × 1.25 = 1,500円以上の時給が支払われる必要があります。また、深夜労働や休日労働についても、正社員と同様の割増率が適用されます。
4. 知らないと損をする!時間外手当に関するQ&A

時間外手当について、多くの人が抱える疑問にQ&A形式でお答えします。法律で定められたルールを知ることで、ご自身の権利を守り、正当な対価を得ることにつながります。
4.1 時間外労働時間の上限は法律で決まっていますか?
はい、労働基準法によって時間外労働(残業)の時間には上限が定められています。 企業が従業員に法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えて労働させるには、労働基準法第36条に基づく労使協定、通称「36(サブロク)協定」を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
36協定を締結した場合でも、時間外労働には以下のとおり上限が設けられています。
| 区分 | 上限時間 |
|---|---|
| 原則 | 月45時間・年360時間 |
| 臨時的な特別な事情がある場合(特別条項付き36協定) |
|
これらの上限を超えて労働させた場合、企業には罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される可能性があります。
4.2 未払いの時間外手当を請求できる期間は?
未払いの時間外手当(残業代)を請求できる権利には、「消滅時効」という期限があります。2020年4月1日に施行された改正労働基準法により、賃金請求権の消滅時効期間が変更されました。
法改正により、賃金請求権の時効は原則5年とされましたが、当面の間は経過措置として「3年間」となっています。 そのため、過去3年分までさかのぼって未払いの時間外手当を請求することが可能です。
この3年の時効が適用されるのは、2020年4月1日以降に支払われる賃金からです。 それ以前の賃金については、改正前の法律が適用され、時効は2年となります。
4.3 時間外手当に税金はかかりますか?
はい、時間外手当は給与所得の一部とみなされるため、原則として所得税と住民税の課税対象となります。 毎月の給与から源泉徴収される所得税額は、基本給や各種手当に時間外手当を加えた総支給額を基に計算されます。
そのため、時間外手当が増えると、その分課税対象となる所得が増え、結果として所得税や翌年の住民税の負担額が増加する可能性があります。 また、所得税だけでなく、健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料の算定基礎にも影響を与える場合があります。
4.4 遅刻した分、残業しても手当は出ませんか?
原則として、遅刻した時間と残業時間を相殺することはできません。 労働基準法では、賃金は全額支払わなければならないという「賃金全額払いの原則」が定められています。
遅刻によって労働しなかった時間分の賃金を給与から控除すること(ノーワーク・ノーペイの原則)と、法定労働時間を超えて働いた残業に対して割増賃金を支払うことは、それぞれ別のものとして扱われます。
例えば、所定労働時間が9時から18時(実働8時間)の会社で1時間遅刻し、19時まで1時間残業したとします。この場合、1時間の遅刻分は賃金から控除されますが、18時から19時までの1時間の労働は残業となり、会社はそれに対する手当を支払う義務があります。
ただし、この日の実労働時間は8時間のため、法定外労働とはならず、割増賃金の対象になるかは会社の就業規則の定めによります。 他の日にした残業と遅刻を相殺することは違法です。
5. 時間外手当が正しく支払われない時の相談窓口と請求方法

会社が正当な理由なく時間外手当を支払わないことは、労働基準法違反にあたります。もし、ご自身の時間外手当が適切に支払われていないと感じたら、泣き寝入りせずに適切な手順を踏んで請求することが重要です。この章では、未払いの時間外手当を請求するための具体的なステップと、困ったときに頼れる相談窓口について詳しく解説します。
5.1 まずは証拠の確保が最優先
時間外手当を請求する上で、何よりも重要になるのが「時間外労働をしていた事実」を客観的に証明するための証拠です。 会社との交渉や、労働基準監督署、弁護士への相談、さらには労働審判や訴訟といった法的手続きに進んだ場合、証拠の有無が結果を大きく左右します。 請求する側である労働者が、残業の事実を証明する責任(立証責任)を負うため、できるだけ多くの証拠を日頃から集めておくことが肝心です。
5.1.1 有効な証拠の具体例
時間外労働を証明する証拠には、労働時間を示すもの、会社からの指示があったことを示すものなど、様々な種類があります。単体では証拠として弱くても、複数を組み合わせることで強力な証明となり得ます。 以下に有効な証拠の具体例を挙げます。
| 証拠の種類 | 具体例 | 収集のポイント |
|---|---|---|
| 勤怠の記録 | タイムカード(写真やコピー)、Web打刻システムのスクリーンショット、出退勤管理アプリの記録 | 最も客観性が高く、重要な証拠です。 退職後でも開示請求できる場合があります。 |
| 業務上の記録 | 業務日報、運転日報、PCのログイン・ログアウト履歴、メールの送受信履歴(時刻がわかるもの) | 日々の業務内容と労働時間を結びつける証拠となります。 |
| 会社からの指示を示すもの | 残業を指示する上司からのメールやチャット、残業申請書や承認記録 | 会社が残業を認識し、指示していたことを直接的に証明できます。 |
| 客観的な第三者の記録 | オフィスの入退館記録、警備システムの記録、業務用車両のETC利用履歴やタコグラフ | 会社が管理しているデータですが、開示請求できる可能性があります。 |
| 個人的な記録 | 手書きの勤怠メモや日記、家族や友人への「今から帰る」といった内容のメールやLINE | 他の証拠を補強する材料になります。日々の記録を詳細に残しておくことが重要です。 |
| 給与関連の書類 | 給与明細、源泉徴収票、雇用契約書、就業規則 | 支払われた給与額や、時間外手当に関する会社の規定を確認するために必要です。 |
5.2 会社との交渉で解決を目指す
証拠がある程度集まったら、まずは会社と直接交渉することから始めます。直属の上司や人事・労務担当者に、未払いの時間外手当がある事実と、その根拠となる証拠を示し、支払いを求めましょう。感情的にならず、冷静に事実を伝えることが大切です。
口頭での交渉が難しい場合や、話し合いに応じてもらえない場合は、「請求書」を作成し、送付した事実と内容を郵便局が証明してくれる「内容証明郵便」で送付する方法が有効です。 これにより、請求の意思を明確に示し、時効の進行を一時的に止める効果も期待できます。
5.3 労働基準監督署への申告
会社との交渉で解決しない場合、公的機関である労働基準監督署に相談・申告するという選択肢があります。労働基準監督署は、企業が労働基準法などの法令を遵守しているかを監督する機関です。
相談は無料で、匿名で行うことも可能です。 申告によって労働基準法違反の事実が認められれば、労働基準監督署から会社に対して是正勧告や指導が行われ、状況が改善される可能性があります。
ただし、労働基準監督署はあくまで中立的な立場で法違反を是正する機関であり、個人の代理人として未払い賃金を取り立ててくれるわけではない点には注意が必要です。
5.4 弁護士への相談・依頼
労働基準監督署の指導でも会社が支払いに応じない場合や、請求額が高額で交渉が複雑化しそうな場合は、労働問題の専門家である弁護士に相談・依頼することが最も確実な解決策の一つです。
弁護士に依頼すると、証拠収集のアドバイスから、正確な未払い時間外手当の計算、会社との交渉、そして労働審判や訴訟といった法的手続きまで、一貫して代理人として行ってくれます。 これにより、ご自身の精神的・時間的な負担が大幅に軽減されるという大きなメリットがあります。
弁護士費用については、初回相談を無料としている法律事務所も多くあります。 費用体系は事務所によって異なりますが、一般的に相談料、着手金、成功報酬などで構成されており、着手金無料で成功報酬制を採用している事務所もあります。 まずは無料相談などを活用し、費用体系や解決の見通しについて確認してみると良いでしょう。
| 相談先 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 労働基準監督署 | ・無料で相談できる ・匿名での情報提供も可能 ・会社への是正勧告や指導が期待できる |
・個人の代理人として交渉や請求はしてくれない ・証拠が不十分だと動いてくれないことがある ・必ずしも迅速に対応されるとは限らない |
| 弁護士 | ・法的な観点から的確なアドバイスがもらえる ・会社との交渉や法的手続きをすべて任せられる ・金銭回収の可能性が高まる ・精神的な負担が軽減される |
・費用がかかる(ただし初回相談無料や成功報酬制もある) ・弁護士によって得意分野が異なるため、労働問題に強い弁護士を選ぶ必要がある |
6. まとめ
本記事では、時間外手当の法律上の定義から、具体的な計算方法、様々な雇用形態における注意点、そして未払いが発生した際の対処法までを網羅的に解説しました。
時間外手当は、労働基準法によって定められた労働者の正当な権利です。その金額は「1時間あたりの賃金 × 割増率 × 時間外労働時間」という計算式で算出され、深夜労働や休日労働が加わると割増率が変動します。自身の給与が正しく計算されているか、一度確認してみることが重要です。
また、「管理職だから」「固定残業代制だから」といった理由で、時間外手当が一切支払われないと考えるのは誤りです。実態として管理監督者とは言えない「名ばかり管理職」や、定められたみなし残業時間を超えた労働に対しては、手当を請求できる可能性があります。
万が一、時間外手当が未払いであると疑われる場合は、まずタイムカードや業務メールなどの客観的な証拠を確保することが最優先です。その上で、会社との交渉や、労働基準監督署、弁護士といった専門家への相談を検討しましょう。未払いの賃金請求権には時効(当面は3年)があるため、早めに行動を起こすことが肝心です。
この記事で得た知識をもとに、ご自身の権利を正しく理解し、適切な労働環境で働くための一助となれば幸いです。
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