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【AI産業革命】AIは銀行業界をどのように変えるのか?
目次
アメリカのメガバンクがAIへの投資を強化している。バンク・オブ・アメリカは年間予算40億ドルを投じ、AIによる業務の構造改革を推進している。同行のバンキングAIアプリ「エリカ」は、これまでに30億件超のカスタマートランザクションに対応し、コンテインメント率は98%に達したという。行内でも従業員によるAIの利用が普及し、全従業員のAIアシスタント利用率は90%に達している。
アメリカで進行中のAI革命は銀行業界をどのように変えてゆくのか、最新の情報をもとにお伝えする。
AIに巨額の予算を投じるバンク・オブ・アメリカ

アメリカのメガバンク、バンク・オブ・アメリカがAIに巨額の予算を投じている。ロイターの報道によると、バンク・オブ・アメリカは直近テック系投資予算130億ドル(約2兆1060億円)のうち40億ドル(約6480億円)をAIに投資し、銀行員の生産性向上を図るとしている。バンク・オブ・アメリカの担当者はロイターの取材に対し、AIの銀行員へのアシスタント機能を強化するなどして「銀行員一人あたりの担当顧客数を、現在の15名から50名に増やす」ことを目指しているという。
AIの銀行員へのアシスタント機能とは、例えば顧客の資産管理を行う銀行員に対して、AIが市場状況を分析し、顧客のポートフォリオに応じた最適な投資助言のための情報提供などを行う機能だ。バンク・オブ・アメリカでは比較的早くからこの「AIアシスタント」機能を現場に導入し、全従業員における利用率は90%に達しているという。
人間の銀行員がこれまで自分で行ってきていた市場分析やポートフォリオ構築といった手間と時間がかかる作業をAIにやらせ、AIのアシストとともにこれまで以上に的確な助言を顧客に提供する。バンク・オブ・アメリカでは、銀行員によるAIアシステッドワーク(AI assisted work)が「ニューノーマル」となりつつある。
AIバンキングアプリ「エリカ」とは?

リテールバンキングが強いバンク・オブ・アメリカは、リテールバンキングの分野でもAIを巧みに活用している。「エリカ」(Erica)は、2018年にバンク・オブ・アメリカが提供を開始したAIベースのスマホアプリだ。バンク・オブ・アメリカの口座開設者であれば無料で利用できる「バーチャル・フィナンシャルアシスタント」で、残高確認、各種支払、送金、入出金履歴照会、クレジットカードやデビットカードの管理、クレジットスコア照会といった通常の銀行店頭手続きが音声またはテキストベースで行えるほか、リアルタイムチャットや株式投資アドバイスなどのサービスも利用することができる。
サービス開始から8年経過した現在、「エリカ」はユーザー数5000万人、累計トランザクション数30億件超を誇る、世界でもっとも使われているAIバンキングアプリに成長した。直近の「エリカ」のコンテインメント率(*)は98%に達し、AIによる自己完結的なバンキングをほぼ完全に実現している。
*コンテインメント率(Containment Rate)とは、顧客からの問い合わせや問題を、人間のオペレーターに引き継がずに、AIチャットボットや自動応答システムだけで解決できた割合。
日本でもネットバンキングの普及などで銀行の店頭から銀行員が数を減らしつつあるが、「エリカ」が実現したような完全無人のAIバンキングの世界は今のところ到来していない。しかし、「エリカ」が日本の銀行の近未来を映す「先行事例」になっている可能性は極めて高いだろう。
現場で台頭するAI
上述の通り、バンク・オブ・アメリカではリテールバンキングのうち、預金業務や為替業務の大部分が「エリカ」によって行われ、業務をリプレースしている。住宅ローンや自動車ローンなどの個人向け融資業務については今のところ人間の銀行員が担当しているが、融資審査や与信管理などの一部の業務については、すでにAIが一定のプレゼンスを確保している。
例えば、住宅ローンの相談などについては、「エリカ」が融資の可否や限度額などについて自己完結的に回答できるようになっている。「エリカ」は相談者に具体的な返済プランなどを含めて概要を提示し、必要に応じて人間の住宅ローン担当者へ話をつなぐ。「エリカ」は今のところ「住宅ローンのコンシェルジュ」であり、「ローンオフィサー」ではない。
一方、住宅ローン受付の段階になるとAIによる関与が増してくる。バンク・オブ・アメリカでは住宅ローン受付業務のうち、「本人情報の確認」「雇用データ確認」「収入・負債比率の計算」「書類不備の有無」などをAIが担って、業務をリプレースしている。
住宅ローンの本審査(Underwriting)においては、「クレジットヒストリーの照会」「所得の確認」「資産および負債の確認」「担保情報の確認」などを、AIのアシストと共に人間の行員が行うAssisted workが一般化している。ローン実行の可否を決定する局面においては、AIのアシストを受けた人間の銀行員が最終的な判断を下している。
さらにAIは、いわゆる「ローン詐欺」(Lending fraud)の発見にも力を発揮している。具体的には「申込書の偽造」「収入証明書類の偽造」「他人のなりすまし」「口座の乗っ取り」といった各種の詐欺行為を見抜いている。バンク・オブ・アメリカによると、これまでにAIによって発見された詐欺の手口は50種類以上に上るという。
「バンカー」という仕事の未来

ところで、AIの台頭により「バンカー」という仕事は今後どうなるのだろうか。現時点では、特に融資業務の現場においては、AIは人間の銀行員をアシストする「アシスタント」の立場に留まっている。一方で、リテールバンキングの預金業務と為替業務の多くの部分においては、「エリカ」が人間に代わって自己完結的に業務を遂行している。AIは今後、融資業務や投資業務などの領域にも進出し、人間を完全にリプレースしてしまうのだろうか。
筆者は、銀行が今後も営利組織として存続し、バンキングという仕事をし続ける限り、人間のバンカーはなくならないと考えている。バンカーの仕事の本質とは、人からお金を預かり、人や企業などに貸し付けて利ザヤを稼ぐことだ。それには自ら融資可否を決断し、リスクテイクする姿勢と覚悟が求められる。当然ながら失敗した際の責任も負わなければならない。
AIに融資審査などの「作業」を行わせることはできるが、融資の意思決定やそれに伴う責任負担を負わせることはできない。融資の最終的な意思決定者は、あくまでも人間のバンカーであるのだ。
AI革命がもたらす近未来の銀行像
ただし、AIの台頭によってバンカーの数が減少することは避けられないだろう。「エリカ」が残高照会や入出金などの店頭業務から人間をリプレースしたように、融資業務のうちローン審査などのかなりの部分が今後AIによってリプレースされるはずだ。AI革命がもたらす近未来の銀行像は、AIアシスタントが多くの店頭業務や融資審査業務などを行い、その結果をもとに人間のバンカーが最終的な意思決定を行う「AIから人間のボトムアップ構造」になる可能性が高い。
銀行のルーチンタスクのAI化は必然の流れであり、今後アメリカの他の銀行や、日本を含む諸外国の銀行にも及んでゆくことは確実だろう。
我々は今、銀行という巨大な産業における構造的なパラダイムシフトの瞬間を目撃している。それは、18世紀後半に蒸気機関が広く普及して家内制手工業の現場から熟練労働者を追いやった光景を髣髴とさせるかもしれない。銀行業界は、現在進行中のAI産業革命によって抜本的に転換させられるシンボリックな業界のひとつとなりつつある。変わりゆく銀行の姿を、我々はしっかりと見守り続けなければならない。
参考文献
https://www.reuters.com/business/finance/bofa-says-ai-is-boosting-bankers-productivity-revenue-2025-11-17/
https://www.bankofamerica.com/mortgage/faqs/
https://newsroom.bankofamerica.com/content/newsroom/press-releases/2025/07/bank-of-america-reports-second-quarter-2025-financial-results.html
https://www.bankingdive.com/news/bank-of-america-citi-wells-fargo-headcount-banking-job-cuts-2026/809756/
前田 健二
経営コンサルタント・ライター
事業再生・アメリカ市場進出のコンサルティングを提供する一方、経済・ビジネス関連のライターとして活動している。特にアメリカのビジネス事情に詳しい。
