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適正在庫とは?計算方法から維持のコツまで徹底解説

適正在庫とは?計算方法から維持のコツまで徹底解説

過剰在庫によるコスト増や、欠品による機会損失は企業の経営を圧迫します。

本記事では、適正在庫の重要性から、初心者にも分かりやすい計算方法、維持するための具体的な5つのポイント、さらには効率化ツールまで網羅的に解説。この記事を読めば、データに基づいた正しい在庫管理手法が身につき、キャッシュフロー改善と販売機会の最大化を実現できます。

最適な在庫管理の鍵は、正確な現状把握と継続的な改善にあります。

1. 適正在庫の基本|なぜ在庫管理は重要なのか?

企業の利益を最大化し、持続的な成長を遂げるためには、効率的な「在庫管理」が不可欠です。その中心的な考え方となるのが「適正在庫」です。在庫は多すぎても少なすぎても、企業の経営に深刻な影響を及ぼします。本章では、適正在庫の基本的な概念と、なぜ在庫管理がビジネスの成功に直結するのか、その重要性を掘り下げて解説します。

1.1 適正在庫とは「欠品せず、余らない」最適な在庫量

適正在庫とは、顧客の需要に応えつつ(欠品せず)、かつ過剰な在庫を抱えない(余らない)、企業にとって最も効率的で収益性の高い在庫量のことを指します。

これは単に「在庫を最小限にすること」ではありません。需要の変動や供給の不確実性を考慮しながら、キャッシュフロー、保管コスト、販売機会のバランスを取った「最適な状態」を目指す経営指標です。

適正在庫を維持することで、以下のようなメリットが期待できます。

  • キャッシュフローの改善:余分な在庫に資金が固定化されるのを防ぎ、経営の健全性を高めます。
  • コスト削減:倉庫の保管料や管理費用、在庫の廃棄ロスなどを削減できます。
  • 顧客満足度の向上:欠品による販売機会の損失を防ぎ、安定した商品供給で顧客の信頼を獲得します。
  • 経営効率の向上:在庫状況が明確になることで、生産計画や販売戦略が立てやすくなります。

このように、適正在庫の実現は、企業の競争力を直接的に強化する重要な取り組みなのです。

1.2 過剰在庫が引き起こす経営リスク

「在庫は多めに持っておけば安心」という考えは、多くの経営リスクを内包しています。過剰在庫は、気づかぬうちに企業の体力を奪っていく要因となります。

リスクの種類 具体的な内容
キャッシュフローの悪化 在庫は会計上「資産」ですが、現金ではありません。売れるまで資金化されないため、過剰な在庫は運転資金を圧迫し、資金繰りを悪化させます。
保管・管理コストの増大 在庫を保管するための倉庫費用、光熱費、保険料、棚卸しや在庫管理に関わる人件費など、在庫量に比例してコストが増加します。
品質劣化・陳腐化 長期間保管されることで、商品の品質が劣化したり、流行遅れ(陳腐化)になったりして価値が下落します。最悪の場合、廃棄せざるを得なくなり、仕入れ費用がそのまま損失となります。
価格下落リスク 不良在庫を処分するために、値下げ販売を余儀なくされることがあります。これはブランド価値の毀損や利益率の低下に直結します。

1.3 在庫不足が招く機会損失

過剰在庫とは逆に、在庫が不足することもまた、企業にとって大きな打撃となります。コスト削減を意識しすぎるあまり在庫を絞りすぎると、次のような問題が発生します。

リスクの種類 具体的な内容
販売機会の損失 顧客が商品を購入しようとした際に「在庫切れ」であれば、その売上は得られません。これは最も直接的で分かりやすい損失です。
顧客満足度の低下と顧客離れ 欠品が続くと、顧客は「欲しいときに商品がない店」という印象を持ち、競合他社へ流れてしまう可能性があります。一度失った顧客の信頼を取り戻すのは容易ではありません。
生産・業務効率の低下 製造業では、部品の在庫不足が生産ラインの停止を招き、多大な損失を生みます。また、小売業でも欠品に関する問い合わせ対応や緊急発注などで余計な手間が発生し、現場の生産性を低下させます。
ブランドイメージの毀損 「いつでも安定して供給してくれる」という信頼は、ブランドイメージの重要な要素です。頻繁な欠品は、企業の信頼性を損なうことにつながります。

1.4 適正在庫と安全在庫・欠品許容在庫の違い

在庫管理を語る上で、「適正在庫」と混同されやすい用語に「安全在庫」と「欠品許容在庫」があります。これらはそれぞれ異なる目的を持つ概念であり、正しく理解することが重要です。

項目 適正在庫 安全在庫 欠品許容在庫
目的 経営効率(コスト、キャッシュフロー)と顧客満足度のバランスを最適化する。 需要の急増やリードタイムの遅延など、不測の事態に備え、欠品を防止する。 全ての在庫の欠品を防ぐのではなく、戦略的に一部の欠品を許容し、在庫コストを最適化する。
位置づけ 目指すべき在庫水準の「目標値」。状況に応じて変動する。 欠品を防ぐための「最低限の備え」。適正在庫を構成する要素の一つ。 在庫管理の「戦略・方針」の一つ。特にABC分析におけるCランク品などに適用される。
管理の視点 経営全体(収益性、効率性) リスク管理(欠品防止) コスト最適化(メリハリのある管理)

簡単に言えば、安全在庫は「万が一のための保険」であり、この安全在庫に定期的な発注で消費される「サイクル在庫」を足したものが、経営視点で最適化された適正在庫となります。そして、すべての商品で欠品ゼロを目指すのではなく、重要度の低い商品については欠品許容在庫という考え方を取り入れることで、より戦略的な在庫管理が可能になるのです。

2. 適正在庫の計算方法を3つのアプローチで解説

適正在庫の重要性を理解したところで、次に具体的な計算方法を見ていきましょう。適正在庫の算出には、現場の運用レベルから経営的な視点まで、複数のアプローチが存在します。ここでは代表的な3つの計算方法を、それぞれの目的や特徴とともに詳しく解説します。

2.1 【基本】安全在庫とサイクル在庫から求める計算式

実務で最も基本となるのが、安全在庫とサイクル在庫を足し合わせることで適正在庫を求める方法です。この計算式は、日々の在庫管理において欠品リスクと発注効率のバランスを取るために用いられます。

適正在庫 = 安全在庫 + サイクル在庫

この計算式における「安全在庫」と「サイクル在庫」は、それぞれ異なる役割を持つ在庫です。それぞれの意味を正しく理解することが、精度の高い適正在庫算出の第一歩となります。

  • 安全在庫:需要の急増やリードタイムの遅延といった不測の事態に備えるための、最低限のストックです。欠品による販売機会の損失を防ぐための「保険」の役割を果たします。
  • サイクル在庫:定期的な発注によって補充される在庫のことです。発注した商品が入荷するまでの間に消費される量を想定した在庫であり、発注量の半分が平均的なサイクル在庫量となります。

2.1.1 計算に必要な「リードタイム」とは?

適正在庫、特に安全在庫を計算する上で欠かせないのが「リードタイム」の正確な把握です。リードタイムとは、ある工程が始まってから終わるまでの所要時間のことです。在庫管理においては、主に「発注リードタイム」を指します。

発注リードタイムは、商品をサプライヤーに発注してから、自社の倉庫に納品されるまでの全期間を意味します。この期間が長ければ長いほど、不確実性が増すため、より多くの安全在庫が必要になります。

リードタイムの内訳 内容
発注処理時間 自社が発注データを送信してから、サプライヤーが受注処理を完了するまでの時間
製造・出荷準備時間 サプライヤーが製品を製造したり、倉庫からピッキング・梱包したりする時間
輸送時間 サプライヤーから出荷され、自社の倉庫に到着するまでの配送時間

これらの時間を正確に計測し、合計したものが発注リードタイムとなります。

2.1.2 計算に必要な「安全係数」の決め方

安全在庫を算出するもう一つの重要な要素が「安全係数」です。これは、どの程度の欠品を許容するかという「サービスレベル(欠品許容率の逆)」に基づいて設定される係数です。サービスレベルを高く設定する(欠品を許さない)ほど、安全係数は大きくなり、必要な安全在庫も増加します。

安全係数は、需要のばらつきが正規分布に従うと仮定して統計的に求められます。自社が目標とするサービスレベルに応じて、以下の表を参考に安全係数を設定します。

サービスレベル(欠品しない確率) 欠品許容率 安全係数
90% 10% 1.28
95% 5% 1.65
98% 2% 2.05
99% 1% 2.33

例えば、「100回の需要のうち95回は在庫で対応したい(欠品は5%まで許容する)」と考える場合は、サービスレベル95%とし、安全係数には1.65を用います。どのレベルを目指すかは、商品の重要度や顧客への影響、在庫コストなどを総合的に勘案して決定する必要があります。

2.2 【経営視点】在庫回転率から求める計算式

次に、キャッシュフローや経営効率といった経営的な視点から適正在庫を算出する方法です。このアプローチでは「在庫回転率」という指標が用いられます。在庫回転率は、一定期間内に在庫が何回入れ替わったかを示す数値で、在庫の効率性を測るための重要な経営指標です。

在庫回転率の計算式は以下の通りです。

在庫回転率(回) = 年間の売上原価 ÷ 平均在庫金額

※平均在庫金額 = (期首在庫金額 + 期末在庫金額) ÷ 2

この在庫回転率が高いほど、少ない在庫で効率よく売上を上げていることを意味します。この指標を用いて、目標とする在庫回転率から適正在庫の「金額」を逆算することができます。

適正在庫金額 = 期間売上原価 ÷ 目標在庫回転率

例えば、年間の売上原価が1億2000万円で、目標の在庫回転率を12回(月に1回転)に設定した場合、適正在庫金額は1000万円(1億2000万円 ÷ 12回)となります。業種や扱う商材によって適正な在庫回転率は異なりますが、自社の目標値を設定し、そこからあるべき在庫水準を把握することは、健全なキャッシュフロー経営に不可欠です。

2.3 【収益性視点】交叉比率から求める計算式

3つ目は、在庫がどれだけ儲けに貢献しているかという「収益性」の視点から適正在庫を考える方法です。ここでは「交叉比率(こうさひりつ)」という指標を用います。交叉比率は、在庫の効率性(在庫回転率)と収益性(粗利益率)を掛け合わせて算出され、在庫投資の効率性を総合的に評価する指標です。

交叉比率 = 在庫回転率 × 粗利益率(%)

※粗利益率 = (売上高 – 売上原価) ÷ 売上高 × 100

この数値が高いほど、その在庫は「効率よく回転し、かつ利益もしっかり生み出している」優良な商品であると判断できます。一般的に、交叉比率は100以上が望ましいとされています。この指標を使うことで、単に在庫の量をコントロールするだけでなく、どの商品を重点的に管理すべきかという戦略的な判断が可能になります。

交叉比率を個々の商品(SKU)ごとに算出し、数値の低い商品の在庫を削減したり、逆に数値の高い商品の欠品を防いだりすることで、全体の在庫を収益性の高い構成に最適化していくことができます。

2.4 【具体例】数値を当てはめて適正在庫をシミュレーション

では、実際に数値を当てはめて、最も基本的な「安全在庫+サイクル在庫」のアプローチで適正在庫を計算してみましょう。

【設定条件】

  • 対象商品:特定のスニーカー(商品A)
  • 1日の平均出荷数:20足
  • 出荷数の標準偏差(需要のばらつき):5足
  • 発注リードタイム:10日
  • サービスレベル:95%(欠品許容率5%)
  • 1回の発注量:400足

この条件を基に、ステップバイステップで計算を進めます。

【計算プロセス】

  1. 安全係数の決定
    サービスレベル95%に対応する安全係数は「1.65」です。
  2. 安全在庫の計算
    安全在庫は、需要とリードタイムの不確実性に備えるための在庫です。以下の計算式で求めます。
    安全在庫 = 安全係数 × 需要の標準偏差 × √リードタイム
    = 1.65 × 5足 × √10
    = 8.25 × 3.16…
    ≒ 26.1足 → 27足(※小数点以下は切り上げ)
  3. サイクル在庫の計算
    サイクル在庫は、次回の発注までに消費される在庫の平均量です。
    サイクル在庫 = 1回の発注量 ÷ 2
    = 400足 ÷ 2
    200足
  4. 適正在庫の計算
    最後に、安全在庫とサイクル在庫を足し合わせます。
    適正在庫 = 安全在庫 + サイクル在庫
    = 27足 + 200足
    227足

このシミュレーションにより、商品Aの適正在庫量は約227足と算出されました。この数値を基準に発注点(例:リードタイム中の平均消費量+安全在庫)を設定し、日々の在庫管理に活かしていくことになります。

このように、自社のデータを基に計算することで、感覚的な在庫管理から脱却し、データに基づいた客観的な在庫コントロールが可能になります。

3. 適正在庫を計算・維持する上での注意点

適正在庫の計算式に数値を当てはめるだけでは、真に最適な在庫量を導き出すことは困難です。市場は常に変動しており、計算の前提となるデータも変化し続けます。

ここでは、より実践的で精度の高い適正在庫を計算・維持するために、必ず押さえておくべき3つの重要な注意点を解説します。

3.1 データは長期的なスパンで分析する

適正在庫を計算する上で基礎となるのが、過去の販売実績や出荷データです。このデータを分析する際、注意すべきは「どのくらいの期間のデータを参照するか」という点です。

短期間のデータだけでは、一時的な売上の増減や突発的なイベントといった特殊要因に左右され、実態からかけ離れた在庫量を算出してしまうリスクがあります。

例えば、先月の売上が好調だったからといって、そのデータだけで発注量を増やすと、翌月には需要が落ち着き、過剰在庫を抱えることになりかねません。安定した需要予測と精度の高い適正在庫を算出するためには、少なくとも1年以上の長期的なスパンでデータを分析し、全体的な傾向を把握することが不可欠です。

分析期間 メリット デメリット・注意点
1ヶ月〜3ヶ月 直近のトレンドを反映しやすい 一時的な需要変動やセール等の特殊要因の影響を大きく受け、分析結果が不安定になりやすい
半年 特定の季節の傾向を捉えることができる 通年のサイクルを把握できないため、反対の季節の需要を見誤る可能性がある
1年以上 季節変動を含む年間を通した需要の波を正確に把握でき、安定的で信頼性の高いデータを算出できる データ収集と分析に時間がかかるが、最も推奨される期間

信頼できるデータを十分に蓄積することが、適正在庫管理の第一歩となります。

3.2 季節変動やトレンドを考慮する

多くの商品には、年間を通じて需要が変動する「季節性」や、メディア・SNSなどによって突発的に需要が変化する「トレンド」が存在します。過去の平均データだけを頼りにすると、こうした需要の波に対応できず、大きな機会損失や過剰在庫につながる危険があります。

特に、以下のような要因は適正在庫の計算に大きく影響するため、必ず考慮に入れましょう。

  • 季節変動:夏物・冬物衣料、エアコンや暖房器具、クリスマスやバレンタインなどのイベント関連商品、お中元・お歳暮など、特定の時期に需要が集中する商品。
  • トレンド:テレビ番組やインフルエンサーによる紹介、SNSでの流行、映画やアニメとのタイアップなどによって、予測不能な需要が急増するケース。
  • カレンダー要因:ゴールデンウィークなどの大型連休、給料日後の週末、曜日の並びなどによる消費行動の変化。
  • 経済・社会情勢:景気動向、原材料価格の変動、天候不順、法改正などが需要に影響を与えることもあります。

これらの変動に対応するためには、過去の同時期のデータを比較分析したり、「季節指数」を用いて需要を補正したりする手法が有効です。また、日頃から市場の動向やトレンド情報にアンテナを張り、必要に応じて在庫計画を柔軟に調整する姿勢が求められます。

3.3 定期的に見直し、最適化を続ける

適正在庫は、一度計算したら終わりではありません。市場環境、競合の動向、サプライヤーの状況、そして自社の経営戦略など、在庫を取り巻く環境は絶えず変化します。

したがって、算出した適正在庫が常に最適であるとは限りません。「適正在庫は“生き物”である」と捉え、定期的に見直し、最適化を続けることが極めて重要です。

在庫管理におけるPDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)を回し、継続的な改善を図りましょう。具体的には、以下のタイミングで見直しを行うことが推奨されます。

見直しのタイミング(例) 主な確認項目
定期的(月次・四半期) 実績と予測の乖離、在庫回転率、欠品率、保管コストの推移
新商品・終売商品の発生時 類似商品のデータに基づく初期在庫設定、旧商品の処分計画
外部環境の変化時 競合他社の新商品投入やキャンペーン、サプライヤーやリードタイムの変更、物流コストの変動
内部環境の変化時 販売戦略や経営方針の変更、新たな販路の開拓

これらの注意点を踏まえ、静的な数値としてではなく、動的な管理目標として適正在庫を捉えることで、キャッシュフローの改善と販売機会の最大化を両立させることが可能になります。

4. 適正在庫を維持するための5つの実践的ポイント

適正在庫の計算方法を理解しても、それを維持し続けなければ意味がありません。日々の業務の中で適正在庫を維持するためには、継続的な努力と仕組みづくりが不可欠です。ここでは、企業が実践すべき5つの重要なポイントを具体的に解説します。

4.1 在庫状況を正確に把握する(見える化)

適正在庫を維持する第一歩は、自社の在庫が「いつ、どこに、どれだけあるのか」を正確に把握すること、つまり「在庫の見える化」です。リアルタイムの在庫情報がなければ、精度の高い需要予測や適切な発注は行えません。

手作業での管理はミスやタイムラグが発生しやすいため、バーコードやICタグを活用した在庫管理システムの導入が効果的です。正確な在庫データを基盤とすることで、初めて戦略的な在庫管理が可能になります。

4.1.1 ABC分析で在庫の優先順位をつける

すべての在庫を同じように管理するのは非効率です。そこで重要になるのが、在庫の重要度に応じて管理レベルに差をつける「ABC分析」です。これは「パレートの法則(80:20の法則)」に基づき、売上高や利益への貢献度が高い順に在庫をA・B・Cの3つのグループに分類する手法です。これにより、限られたリソースを重要な在庫に集中させることができます。

ランク 構成比(売上)の目安 品目数の目安 管理方針
Aランク 上位70~80% 全体の10~20% 最重要管理品目。欠品を絶対に避けるため、毎日在庫を確認し、需要予測の精度向上や安全在庫の厳密な設定を行う。
Bランク 次の10~20% 全体の20~30% 中程度管理品目。Aランクほどではないが、定期的な在庫確認を行い、定量発注方式などで管理を効率化する。
Cランク 下位10% 全体の60~70% 一般管理品目。在庫管理の労力を最小限に抑える。定期発注方式や、ある程度まとまった量を発注するなど、手間のかからない管理を目指す。

ABC分析を定期的に実施し、商品ライフサイクルや市場の変化に合わせてランクを見直すことで、常に最適な在庫管理体制を維持できます。

4.2 精度の高い需要予測を行う

適正在庫を維持するためには、将来どれだけの商品が売れるのかを予測する「需要予測」の精度が極めて重要です。予測が外れれば、過剰在庫や欠品に直結します。

精度の高い需要予測を行うには、過去の販売実績データだけでなく、季節変動、天候、経済動向、競合の動き、広告や販促キャンペーンの計画など、様々な要因を総合的に分析する必要があります。

近年では、AI(人工知能)を活用して膨大なデータから複雑な需要パターンを学習し、人間では困難な高精度な予測を行うツールも普及しています。

4.3 発注方式(定期・定量)を最適化する

在庫を補充するための発注方法には、主に「定期発注方式」と「定量発注方式」の2種類があります。それぞれの特性を理解し、商品の特性や管理レベル(ABC分析の結果など)に応じて最適な方式を選択することが、在庫の最適化につながります。

  • 定量発注方式:在庫があらかじめ設定した「発注点」を下回ったタイミングで、一定量を発注する方式です。需要の変動に対応しやすく、Aランク品など重要度の高い商品の管理に適しています。
  • 定期発注方式:毎週、毎月など、決まったサイクルで発注する方式です。発注業務を効率化できますが、需要の急増や急減には対応しにくい側面があります。Cランク品など、管理コストを抑えたい商品に適しています。
発注方式 特徴 メリット デメリット
定量発注方式 在庫量が一定水準(発注点)になったら発注する 需要変動に対応しやすく、欠品リスクを低減できる 常に在庫量を監視する必要があり、管理工数がかかる
定期発注方式 一定の期間ごとに発注する 発注業務の計画が立てやすく、管理工数を削減できる 需要の急変に対応しにくく、欠品や過剰在庫のリスクがある

これらの方式を組み合わせ、商品ごとに最適な発注ルールを設けることが重要です。例えば、「Aランク品は毎日在庫をチェックして定量発注、Cランク品は月に一度の定期発注」といった運用が考えられます。

4.4 リードタイムの短縮に努める

リードタイムとは、商品を発注してから納品されるまでにかかる時間のことです。このリードタイムが長ければ長いほど、その間の需要変動や供給の不確実性に備えるための安全在庫を多く抱える必要があり、適正在庫量は増加します。リードタイムを短縮できれば、必要な在庫量を削減し、キャッシュフローを改善できます。

リードタイム短縮のためには、以下のような取り組みが有効です。

  • 調達リードタイムの短縮:サプライヤーとの連携を強化し、情報共有を密にする。近隣のサプライヤーへの切り替えや、発注プロセスのデジタル化も効果的です。
  • 製造リードタイムの短縮:生産計画の精度向上、段取り時間の削減、工程の見直しなど、生産プロセス全体の効率化を図ります。
  • 配送リードタイムの短縮:物流拠点の見直しや、配送パートナーとの連携強化により、納品までの時間を短縮します。

4.5 部門間で連携し、全社で取り組む

在庫管理は、特定の部門だけの問題ではありません。営業、マーケティング、製造、購買、物流といった各部門がそれぞれの目標を持っているため、部門間の連携が不足すると在庫の偏りが発生しがちです。

部門 在庫に対する考え方(傾向) 重視するポイント
営業・マーケティング部門 多めの在庫を確保したい 欠品による販売機会の損失防止、顧客満足度の向上
製造・購買部門 計画的に生産・発注したい 生産効率の最大化、調達コストの削減
経理・財務部門 在庫を最小限にしたい 保管コストの削減、キャッシュフローの改善

このような部門間の利害の対立を解消し、会社全体として最適な在庫水準を目指すためには、全部門が参加する「S&OP(Sales and Operations Planning)」のような会議体を設け、販売計画、生産計画、在庫計画をすり合わせることが不可欠です。全社共通のKPI(重要業績評価指標)として在庫回転率や欠品率を設定し、目標達成に向けて協力する体制を構築することが、適正在庫維持の鍵となります。

5. 適正在庫管理を効率化するツールとシステム

適正在庫の計算や維持は、企業の収益性を左右する重要な業務ですが、手作業に頼ると多くの工数がかかり、ヒューマンエラーのリスクも伴います。

特に、需要の変動が激しい商品や多品目を扱う場合、その管理は非常に複雑になります。そこで、業務の効率化と精度向上を実現するために、ツールやシステムの活用が不可欠です。

ここでは、代表的な管理方法から最新のAIツールまで、適正在庫管理を効率化する選択肢を解説します。

5.1 Excel(エクセル)での在庫管理

多くの企業、特に事業開始当初や中小企業において、最も手軽に始められるのがExcel(エクセル)による在庫管理です。追加の導入コストがほとんどかからず、多くの従業員が基本的な操作に慣れているため、すぐに運用を開始できる点が大きな魅力です。

しかし、手軽さの一方で、事業規模の拡大に伴い様々な課題が顕在化します。Excelでの在庫管理には、以下のようなメリットとデメリットが存在します。

メリット デメリット・限界
特別な導入コストが不要 属人化しやすく、担当者不在時に業務が滞る
自社の運用に合わせて自由にカスタマイズ可能 複数人での同時編集やリアルタイム更新が困難
基本的な関数で簡易的な管理ができる データ量が増えると動作が著しく遅くなる
多くの従業員が操作に慣れている 入力ミスや数式破損などのヒューマンエラーが起きやすい

Excelは小規模な在庫管理には有効ですが、リアルタイムでの情報共有や高度な分析、ミスの防止といった観点では限界があります。在庫管理の重要性が増すにつれて、より専門的なツールの導入を検討する段階が訪れます。

5.2 在庫管理システムの導入メリット

Excelでの管理に限界を感じた場合、次のステップとなるのが「在庫管理システム」の導入です。在庫管理システムは、在庫の入出庫から保管、棚卸までを一元的に管理し、業務プロセス全体を最適化するために設計されています。導入により、以下のような多くのメリットが期待できます。

  • 在庫状況のリアルタイムな可視化
    ハンディターミナルやバーコードリーダーと連携することで、入出庫の情報を即座にシステムに反映できます。これにより、いつでもどこでも正確な在庫数をリアルタイムで把握でき、迅速な意思決定を支援します。
  • 業務効率化とヒューマンエラーの削減
    手作業によるデータ入力や転記作業が自動化されるため、担当者の業務負担が大幅に軽減されます。また、入力ミスや数え間違いといったヒューマンエラーを防ぎ、データの信頼性を高めます。
  • 適正在庫の維持精度向上
    蓄積された正確な在庫データや販売実績データを基に、需要予測やABC分析などを容易に行えます。これにより、勘や経験に頼らない、データに基づいた客観的な適正在庫の算出と維持が可能になります。
  • トレーサビリティの確保
    いつ、どの商品が、どこから入荷し、どこへ出荷されたのかという履歴(トレーサビリティ)を正確に追跡できます。品質問題が発生した際の原因究明や、食品業界における賞味期限・消費期限管理の厳格化に貢献します。

在庫管理システムを導入することで、在庫が入荷されてから出荷されるまでの位置情報、数量、状態などを正確に管理し、欠品や過剰在庫といった問題を根本から解決する体制を構築できます。

6. まとめ

適正在庫の維持は、過剰在庫によるキャッシュフローの悪化や、欠品による機会損失を防ぎ、企業の競争力を高める上で不可欠です。

本記事では、安全在庫や在庫回転率を用いた計算方法から、ABC分析による在庫の優先順位付け、需要予測といった維持のポイントまで解説しました。まずはExcelから始め、事業規模に応じて在庫管理システムやAIツールの導入も視野に入れましょう。

自社に最適な手法で、継続的な在庫管理の最適化に取り組むことが重要です。

WRITING BY

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