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【WBC国内独占放送】既存テレビ局を圧倒する「NetflixのAI活用戦略」

Beautiful Young Woman is Sitting on a Couch at Night at Home and Choosing a Movie to Watch on a Futuristic Augmented Reality Hologram Screen. Futuristic Concept.

世界中の野球ファンが待ち望んでいたWBC2026が開幕した。大谷翔平、山本由伸らメジャーリーガーを筆頭に最精鋭の選手陣で連覇に挑戦する日本やタイトル奪還を目指すアメリカ、ドミニカ共和国などの強豪国が激戦を繰り広げている。

今やファン熱狂の世界イベントとなったWBCだが、今回の日本国内の放送はストリーミングサービス大手のNetflixが独占放送することになり、様々な意味で注目を集めている。AIを駆使し、既存テレビ局を大きく圧倒する存在となったNetflixだが、そのAI活用戦略を含めてお伝えする。

WBC日本国内独占放送で話題を呼ぶNetflix

Woman watching baseball

長く続いた地上波テレビ局によるWBC(Wold Baseball Classic、ワールドベースボールクラシック)放送の時代が終わりを迎えた。今年のWBC2026は、国内史上初めてストリーミングサービス大手のNetflixが独占放送する。サムライジャパン対NPB球団の強化試合は従来通り地上波テレビ局が放送するが、WBC本戦はすべてNetflixを通じてのみ視聴が可能だ。

一説には100億円とも150億円とも噂されるWBCの高額な放映権料に地上波テレビ局が軒並み躊躇し、Netflixが攫っていったと見られている。すでに日本の番組制作会社などへ高額なオファーを提示し、独自コンテンツを積極的に製作・配信していることで知られているNetflixだが、実は古くからAIを活用し、成長の原動力としてきたことはあまり知られていない。

Netflixとはどのような会社で、どのようにAIを活用しているのだろうか。

1997年設立、DVD郵送レンタルで事業をスタート

Netflixはリード・ヘイスティングスとマーク・ランドルフの二人が、1997年にカリフォルニア州スコッツバレーで設立した会社だ。立上げ当初の事業はDVD郵送レンタルで、当時のレンタルビデオ大手ブロックバスターを「最大の競合企業」としていた。起業のきっかけはいたって単純で、ブロックバスターから映画『アポロ13号』のビデオをレンタルし、返却し忘れたヘイスティングスが高額な延滞料を科せられたことに腹を立てたことに端を発する。

6週間の遅延に対して44ドルの延滞料を科せられたヘイスティングスは、「44ドルを月額の定額で頂戴して、利用者が好きなだけビデオやDVDをレンタルできるようにしたら素晴らしいビジネスになるかも知れない」と思い付き、今でいうサブスクリプションベースのレンタル期間無制限のDVD郵送レンタル事業をスタートさせた。スコッツバレーの小さなホテルの会議室からスタートしたビジネスは、カリフォルニア名物の山火事のように瞬く間に燃え広がり、今日現在世界190ヶ国で2億3000万人のサブスクライバーを有する世界最大のストリーミングサービスへと成長した。

初期の段階からレコメンデーションを提供してリテンション率を向上

Tablet, children and family with a brother and sister watching movies on a living room floor together. Internet, kids and technology with a girl and boy streaming online subscription service at home

まるで漫画のようなサクセスストーリーを体現してきたNetflixだが、その成長の原動力に事業の初期のフェーズからAIを最大限に活用してきたことが指摘されている。Netflixは1998年4月にDVD925タイトルとともに郵送レンタルを開始し、翌1999年にはレンタル期間無制限の月額ベースのサブスクリプションモデルをスタートさせている。

レンタル事業ではユーザーに定期的にリピートしてもらうことが事業存続の必要条件であり、当初からNetflixはユーザーのレンタル履歴に基づいた「おすすめ作品」をレコメンデートする仕組みを提供していた。取り扱いタイトル数増加に合わせてレコメンデーション機能は強化され、ユーザーのリテンション率を高めて行った。タイトル数が膨大になるとユーザーは見たいタイトルを自分で探すよりも、パソコンの画面に適時表示される「おすすめ作品」をより積極的に選択する傾向が強まる。より正確に「ユーザーが次に見たい作品をレコメンドする」仕組みが時間の経過とともに構築され、シネマッチ(Cinematch)という名のシステムとなっていった。

シネマッチはユーザーのリテンション率を高めることに成功し、Netflixの事業を支える重要な基盤となった。Netflixは2007年からコンテンツのストリーミングサービスを開始しているが、メイン事業がDVDレンタルからストリーミングサービスへ移行した後もシネマッチは進化を続け、現在に至っている。

シネマッチの仕組み

Digital contents concept. Social networking service. Streaming video. communication network.

シネマッチの仕組みだが、基本的には協調フィルタリング(Collaborative Filtering)をベースにしている。協調フィルタリングは、ユーザーの購入履歴などのデータをもとに嗜好パターンを解析し、レコメンデーションを行う一連の仕組みだ。Amazonも創業当初から協調フィルタリングベースのレコメンデーションを提供し、競合企業を圧倒する原動力としてきたことは周知の通りだ。

シネマッチの性能をさらに向上させる目的で、Netflixは2006年にNetflixプライズと言う賞金100万ドルのアルゴリズム開発コンテストを実施し、世界中の開発者へ参加を呼びかけた。シネマッチの予測精度を10%以上改善することを目標に掲げたコンテストには世界中から多くの参加者が集まり、2009年に勝者が確定した。優勝したBellkor’s Pragamatic Chaosが開発したアルゴリズムは極めて複雑な構造で、100種類以上のサブアルゴリズムを組み合わせたアンサンブルモデルだとされている。

2010年代に入り、ストリーミングサービスの普及が本格化すると、シネマッチの性能はさらに複雑化し、向上していった。おすすめ機能の精度はより高まり、ユーザーの嗜好に合わせてインターフェースをカスタマイジングしたりするなど、パーソナライゼーションがさらに強化されていった。トップページに表示されるサムネイルなどもパーソナライズされ、「ユーザーごとに見る画面が違う」ことが常態化するようになった。

現在Netflixは「おすすめ機能」や「インターフェースのパーソナライゼーション」などに加えて、「ターゲティング広告の配信」「パーソナライズド広告の生成」、さらに番組などのコンテンツ制作にもAIを活用するなど、AIの活用範囲をさらに広げている。創業当初からレコメンデーション機能を提供し、事業の成長と共にAIの活用範囲を広げて事業を拡大させ、現在もなおAIとともに進化を続けるNetflixに、日本の地上波テレビ局が立ち向かうのは容易ではないのは言うまでもない。

今後、スポーツコンテンツをより強化

DVD郵送レンタルから始まったNetflixは、スポーツコンテンツなどのリアルタイムコンテンツが比較的弱いとされてきた。ところが、最近はアメリカの国民的スポーツのNFLのクリスマスゲームやマイク・タイソン対YouTuberのジェイク・ポールのボクシングマッチなどを独占配信し、スポーツコンテンツの領域にもプレゼンスを拡げつつある。報道によるとNetflixは今回日本で独占放送するWBCのほかに、2027年開催の女子サッカーワールドカップ、フォーミュラーワン(F1)などの独占放送なども計画しているという。

スポーツコンテンツは、リアルタイムで視聴するユーザーから直接フィーを獲得できるだけでなく、バックグラウンドストーリーといったいわゆるドキュシリーズなどでも視聴数を稼ぐことができるとされ、コンテンツ配信業者にとっては「非常に美味しいコンテンツ」であるとされている。

日本では、すでにボクシングの世界タイトルマッチの放映権などがストリーミングサービス業者に奪われているが、 NetflixによるWBC独占放送は、これまで地上波テレビ局が独占していたスポーツコンテンツへのストリーミングサービス業者による侵食の兆しであると言えるだろう。今から10年も経てば、世界的なスポーツイベントはストリーミングサービスで視聴するのが当たり前の時代になっている可能性が高いだろう。

参考文献

https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-03-03/TBB1VNKK3NY900
https://marketing4ecommerce.net/en/history-of-netflix/
https://www.klover.ai/netflix-ai-strategy-for-dominance/
https://www.jaif.or.jp/journal/feature/itsociety/data_mining/netflix
https:// www.sportspro.com/news/netflix-live-sport-rights-f1-apple-ted-sarandos-july-2025/

WRITING BY

前田 健二

経営コンサルタント・ライター

事業再生・アメリカ市場進出のコンサルティングを提供する一方、経済・ビジネス関連のライターとして活動している。特にアメリカのビジネス事情に詳しい。

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