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フードロスの解決を加速させる「需要予測」と「DX」の関係

 

2050年までのカーボンニュートラルに向けて、直ちに取り組まなければいけない課題の1つが、フードロスの削減だ。

フードロスとは、さまざまな理由によって食べられることがないまま捨てられる食品のこと。国連食糧農業機関(FAO)によると(※1)、世界では生産される食料の約3分の1にあたる約13億トンが破棄されている。

言うまでもないが、食品の生産から店頭に並ぶまでの過程でエネルギーが消費され、温室効果ガスの原因となる二酸化炭素が排出される。つまり、食べられることなく捨てられれば、エネルギーが無駄になるだけでなく、廃棄のためにさらに二酸化炭素の排出量が増える。

その解決の切り札として注目を集めるのが、AIなどのテクノロジーを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の技術だ。今回は「需要予測」と「DX」を掛け合わせた、フードロス発生の抑止を目指す新たなソリューションを探っていこう。

過剰な在庫がフードロスとなる

日本におけるフードロスは、食品関連事業者から発生するごみと家庭から発生するごみがそれぞれ全体の半分を占める。

農林水産省によると(※2)、令和3年度の食品ロス量は523万トンで、全体の53%は事業系食品ロス、47%は家庭系食品ロス量だった。前年比では、家庭系のごみが3トン削減されたのに対し、食品関連事業者のごみが4トン増加した。

家庭によるフードロスでは、未開封のまま捨てられる「直接廃棄」、食べられる部分まで捨てる「過剰除去」、食べ切れずに捨てられる「食べ残し」が主な原因とされる。

一方で、企業の場合は、発生要因は各業界ごとに異なるが、食べられずに捨てられる食品の多くが需要と供給が合っていないという原因に帰結する。

つまり、企業側が売れるだろうと商品を製造・仕入れても、読みが外れれば、商品は「食品の3分の1ルール」と呼ばれる商慣習や消費期限によって廃棄されることになる。そこで鍵を握るのが、需要予測だ。

AIによる需要予測がフードロスを最小化

需要予測とは、市場の需要と供給のバランスを正確に予測し、適正数を生産することで、企業の利益を最大化させる手法。市場の需要と共有は、季節や社会情勢によって常に変動するため、適切な予測能力はどの企業にとっても欠かせない。

しかし、需要予測は属人化しやすいという課題を多くの企業が抱えている。消費者の需要を読むには、専門的な知識が不可欠であるため、長く経験を積んでいる担当者の感覚や勘に頼ってしまいがちだ。そうした属人的なシステムは後継者への引き継ぎを難しくするだけでなく、担当者が退職すれば需要予測の精度が下がるなど、ロスを生み出しやすい仕組みになっている。

企業にとって理想的なゴールは、ロスがゼロであること。ただし、予想をピタリと的中させるための膨大なデータ分析は、人間には限界がある。そこで注目を集めているのがAIなどのテクノロジーを活用した需要予測だ。​

例えば、スーパーマーケットを経営する企業が、過去の商品別の売上や天気、年間行事など、さまざまなデータをAIに学習させる。それまでは担当者だけが行っていた需要予測の分析をAIに任せることで、誰が行っても誤差が小さい需要予測ができる。

AIの利用を推し進めることは、人間では扱い切れない過去の売り上げや顧客属性、天候などといった膨大なデータを正確に分析できるだけでなく、業務の効率化と現場の負担を大幅に削減することにつながり、企業がより合理的に経営することを可能にする。

AIがフードロスにもたらすポジティブな影響

仮にDXを進め、AIを取り入れることで、具体的にどのような変化がもたらされるのだろうか。フードロスと関わりの大きい小売業と飲食業の視点からいくつか紹介する。

俯瞰的な統計の活用

AIを活用した需要予測は、これまでは叶わなかったレベルでの細分化された予測をもたらす。

市場の傾向を特定し、より深い見通しを見つけ出す。損失を最小限に抑え、新たな販売機会を特定することで、可能な限り早い段階での食品廃棄の回避につなげられる。

最適化された補充

多くの小売業では、自動補充システムの活用や担当者が商品を発注する作業が発生する。しかし、従来のシステムではあくまでも補充にすぎず、需要や価格の変化や気候など、急速に変化する情勢に柔軟に対応はできない。

AIが季節性、販売パターン、在庫状況、予想される廃棄物などを分析すれば、多くの要因に基づいた補充を可能にする。

過剰在庫や在庫不足の回避

在庫過剰は保管や処分にコストがかかり、在庫不足は顧客の不満だけでなく、利益の損失につながる。それぞれを天秤にかけると、販売機会の損出より在庫過剰が選ばれる傾向にあるが、それこそがフードロスの正体だ。

そこで、在庫最適化の予測分析を使うことで、正確な在庫レベルが維持され、在庫室や棚の供給不足または過剰が大幅に削減できる。また、リアルタイムの在庫管理により、配送センターへの注文が最適化され、生鮮品が適切なタイミングで届くよう調整が可能だ。

さらに飲食業では、過去のデータを分析した上で在庫を適切に管理し、多くの余剰と無駄を排除することが叶う。

AIを活用した需要予測には乗り越えるべきハードルがある

DXの一環で、AIを活用したフードロス対策は世界中で取り入れられつつあるが、導入までにはいくつかのハードルを超える必要がある。

まずは、費用の側面だ。例えばAIを導入する場合、システムの開発・導入、トレーニング、データセキュリティの向上などにかかる膨大な費用が発生する。特に小規模な事業者やスタートアップ企業にとっては、初期の投資がネックとなる。

次に、データセキュリティとプライバシーへの配慮だ。連日、企業へのサイバー攻撃による個人情報の流出が報じられている。AIは多くのデータを保持・活用するため、データのセキュリティとプライバシーの適切な保管が求められる。特に個人情報や機密情報が含まれる場合、十分なセキュリティ対策なくしてAIを導入することは望ましくない。

またAIが思ったような成果をもたらすまでには、学習期間のために一定の時間がかかる。システムを構築すれば終わりではなく、試行錯誤しながら、自社に最適なシステムを構築するのには、費用と時間が必要だ。

ただし、テクノロジーを用いた需要予測は日進月歩で進化しており、これらのハードルを極力下げ、企業の規模にかかわらず導入できるツールやサービスが続々と登場している。

企業の新たな取り組みが社会課題を解決に導く

世界には、今この瞬間も飢餓に苦しみ食事を満足にとることができない人が何億人もいる。一方で、食べられることなく捨てられる食品が作り続けられている。

言ってしまえば、フードロスにAIを駆使して取り組むことは、経済や環境的側面を超えて、企業の倫理観を映し出す鏡でもあるのだ。

現状の社会課題を踏まえ、企業として食料を扱う責任を理解し、どのようなソリューションを編み出すか。企業のイノベーティブな挑戦が、自社の利潤最大化のみならず、社会課題の解決に大きな影響を与えていく時代がやってきている。

参考文献

※1 https://www.fao.org/3/i2697e/i2697e.pdf
※2 https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/230609.html
※3 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/pamphlet/assets/food_loss_guide_book_web_wide_data_7mb-latterhalf.pdf

WRITING BY

Ayaka Toba

編集者・ライター

新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。北欧の持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、タイでPermaculture Design Certificateを取得。サステナブルな生き方や気候変動に関するトピックスに強い関心がある。