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「生成AI」に湧いた2023年。企業で導入する上で欠かせない「2つの存在」

 

「どんどん進めてください」

2023年末に行われた、筆者が所属する某スタートアップのミーティング。CEOのこの一言で、あるプロジェクトをさらに推進させることが決まった。
プロジェクトの中核には、2023年を象徴する革新的なテクノロジーが据えられている。

「生成AI」

2023年、日本だけでなく世界を席巻した革新的なテクノロジー。一時のブームは過ぎ去ったように見える。
しかし生成AIは密かに、そして着実にその影響力を高めようとしている。

急激に進む「生成AI」に対する企業の意識変化

覚えているだろうか?2023年の初頭、彗星の如く現れたChatGPTが人々の注目を一手に集めたことを。あれから1年が経とうとしている今、あの熱狂は落ち着きつつあるように見える。実際、GoogleトレンドでもChatGPTの検索数は2023年4月がピークとなっている。

しかし、これは一過性のブームでは終わらないだろう。それは各種調査から見てもうかがえる。野村総合研究所が今年8月に発表した生成AIの導入状況に関するアンケート調査によれば、導入に前向きな姿勢を示しているのは「業務で使用中」「トライアル中」「利用を検討中」を合わせても20%弱にとどまっていた。

ところが、今年10月に発表されたIDC Japanの調査によれば「可能性のある適用分野について検討を始めたところ」が50%を占めるほどになっている。調査対象に大きな違いがあるので一概には言い切れないが、わずか数ヶ月でこれほどまでに意識変化が起きているのは驚くばかりだ。

企業のマインドが大きく変わった背景には、いくつか要因が考えられる。(一般的に見て)突如として現れたChatGPTを数多くのメディアが取り上げ、社会で一定の認知を得るに至った。また今年4月には、岸田文雄総理大臣がOpenAI社のCEOを務めるサム・アルトマンと面会。大きな話題を呼んだ。

日本政府が生成AIに期待をかける背景には、少なくとも急速に進む「少子高齢化」による労働者不足への懸念があるだろう。筆者が所属するスタートアップだけでなく、近年は大企業でも人手不足が叫ばれている。この問題を解決する手段として、企業が生成AIに目を向けるのは当然と言えるかもしれない。

生成AI導入プロジェクトで痛感する「人」と「言葉」の重要性

このような時代の中で、企業が生成AIを導入する際に何がポイントになりうるだろうか。まだ短い期間ながらも、生成AIの導入プロジェクトに関わっている体験を踏まえて、筆者の私見をシェアしたい。

まず結論からお伝えすると、「生成AI」の導入では「人」と「言葉」の重要性をひしひしと感じる。そんなの当たり前じゃないかと思うかもしれない。しかし、そのことを改めて認識させられる日々を送っている。

冒頭のシーンを振り返って欲しい。「生成AIの活用を進める」と決めたのは誰か。実務を把握して現場に生成AIを落とし込むのは誰か。生成AIをメンバーたちが利用できるようWebアプリなどに実装するのは誰か。各々の立場は違えど、そこにはまず「人」が介在している。

少なくとも現状では、人が決めて、人が実装しないことにはAIの活用は進まない。やがてAIが決めて、AIが実装する世界線が訪れるかもしれないが、それでも人が介在する余地は残されるだろう。特に前例のないことに挑戦する際は、人の役割が大きくなるはずだ。

AIについて論じられるとき、その存在を脅威として捉えて、人と対極におく考え方もある。確かに、AIの導入が進むことで代替される職種があり、人の存在価値が問われることもあるだろう。しかし、先に述べたとおり、AIの導入にあたっては人の存在は欠かせないのだ。さらに、人手不足が深刻化する日本において、失業者増加などの懸念は杞憂に終わる可能性が高いと見ている。だからこそ、「人」と「テクノロジー」が共存共栄するという発想が持ちやすいとも言える。

解釈の違いを乗り越える「相互理解」

そして、生成AIの活用に欠かせないもう1つの要素が「言葉」だ。「言葉」の存在をあえて強調したのには、理由がある。まずChatGPTをはじめ、生成AIではプロンプト(指示文)を打ち込む。このプロンプトの質によって、生成AIのアウトプットは大きく異なり、プロンプトエンジニアリングという新たな学問分野が誕生したほどだ。

そして生成AIだけでなく、人とのやり取りにおいても言葉は不可欠であり、異分野の人とのコミュニケーションにおいてその重要性はさらに高まっていると感じる。同じ日本人でも、エンジニアとクリエイターでは言葉のニュアンスや用いる言葉に違いがある。

また同じ言葉に対する解釈にも、大きな違いがあると感じることもある。「ある機能を検証して欲しい」とエンジニアに要望すると、機能単体ではなく、別の技術を組み合わせて検証を行うこともある。こちらはそこまで要望していないが、エンジニアの矜持として単純に終わらせることはできないのだろう。言葉を通わせるバックグラウンドになるであろう「相互理解」も欠かせないと感じる。

エンジニアだけではない。プロジェクトに関わる人たちに伝わるよう、いかに言葉を尽くせるか。社会に出て、それなりに経験を積んできて、わかっているつもりだった。しかし「つもり」であることを痛感させられる日々を過ごしている。

言葉をもって、年末に何を伝えるか

2023年、さまざまなことが起きた1年だったが、生成AIの登場はこの年に起きたメイントピックの1つとして後世に語り継がれるだろう。

個人的な感覚としては、現状の生成AIは60点のものをアウトプットするのに最適なソリューションであると捉えている。しかし、生成AIの進化はとどまることを知らないだろう。さまざまな法規制などが設けられることが想定されるとはいえ、ビッグテックによって技術集約が進めば80点、90点のアウトプットをするようになっても不思議ではないと見ている。

このようなコラムも、人ではなく生成AIが容易に執筆する時代が訪れるかもしれない。

一方で、どんなに技術が進化しても、「人」と「言葉」の重要性は変わらない。いや、それどころかますます高まっていくだろう。技術に精通して、言葉を尽くして共に課題を解決するパートナーの存在は欠かせず、それは社内だけでなく社外にも目を向けて探す必要があるだろう。また本稿では生成AIに焦点を当てているが、生成AIも万能ではない。どのようなテクノロジーが、自社の課題を解決するのに最適か。その見極めができる存在も求められるだろう。

2023年は革新的な技術が登場しただけでなく、「人」と「言葉」の重要性が見直されるターニングポイントになったと後世に語り継がれるかもしれない。2024年はどんな年になるだろうか。未来に想いを馳せ、周囲の人々へ感謝の念を持ち、それを言葉で伝える年末を過ごしたい。

参考文献

https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/cc/mediaforum/2023/forum363.pdf?la=ja-JP&hash=4DA98825DC28A536B3B931B1860B47D52716BFF3
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/souhatsu/2023/miraisouhatsu-report_vol5_202306.pdf?la=ja-JP&hash=1DB9F82D5481A28DD7300F2969415F1C12EF0BF1
https://www.softbank.jp/biz/blog/business/articles/202311/it-trend-2023/
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ51334323
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230410/k10014034131000.html

WRITING BY

狩野 晴樹

ライター

都内のスタートアップに勤めるビジネスパーソン。副業でたまに執筆活動を行う。趣味は野球&サッカー観戦。アラフォーになったものの、「不惑」は遠いと日々感じている。