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AIは“見えないCO2発生装置”なのか──。データセンター急増が招く環境負荷とサステナブルAI最前線

目次
私たちの暮らしは、「AIなくして成り立たない世界」へ確実に足を踏み入れ始めている。
検索をすれば、AIが瞬時に要約を提示し、かつて当たり前だった“検索結果一覧”を見る機会は格段に減った。さらに、スマートフォン、家電、自動車、さらには行政や医療、教育の現場にまでAIが組み込まれ、社会のあらゆる仕組みを変えつつある。
では、便利さと引き換えに、何を代償として支払っているのだろうか。私たちがAIを使えば使うほど、膨大な電力が必要となるだけでなく、データセンターから発せられる熱を抑えるために、大量の水も消費され、深刻な環境コストが積み重なり続けている。
いま、世界各国でデータセンターの需要が急速に高まりつつあるなかで、急成長するAIインフラと地球環境をどう共存させるのかに注目が集まっている。今回は、AIと環境負荷をテーマに、環境に配慮しながらどうAIを使いこなし、持続可能な未来を創っていくかを一緒に探っていこう。
AIと環境汚染が切っても切り離せない理由
AIが環境問題の原因となると聞いて、ピンとこない人も多いかもしれない。まずは、どうやってAIが動いているか正しく理解することから始めよう。
AIはどこかの企業が持つ、データセンターと必ず繋がっている。データセンターとは、サーバーやネットワーク機器が集約される施設で、いわば企業の心臓部。データセンターでは、24時間365日休むことなく情報を「送り出し」「受け取り」「処理」している。
つまり、データセンターに万が一のことがあれば、AIはもちろん動かなくなるし、もっといえば企業や社会への影響も懸念される。絶対の安全を確保するためにたくさんの資金が投入され、その多くが厳重なセキュリティのもと、場所も詳細も秘匿されていることがほとんどだ。
AIの処理は、GPUを備えた大規模なサーバークラスターで行われる。サーバークラスターとは、多数のサーバーをネットワークで束ねて、1つの超高性能コンピューターのように動かす仕組みのこと。このとき、膨大な電力を消費し、その過程で発せられた熱を逃がすために大量の冷却水や空調設備が必要になる。
AIの進化の陰で増える、電力と水の負担
熱といっても、白熱灯やPCの熱さとは比べものにならない。60〜85℃もしくはそれ以上に及ぶとされ、熱を下げるためには、四六時中、冷却システムが必要になる。多くのデータセンターでは、蒸発冷却を使っているため、サーバークラスターの数が多くなればなるほど膨大な水を消費することになり、地域の水資源を圧迫する恐れがある。
IEA(国際エネルギー機関)によると、AIの電力需要は2030年までに現在の2倍以上の約945テラワット時に達すると予測される。これは、現在の日本国内の総電力消費量にと匹敵する(※1)。
また、1メガワット級のデータセンターでは、年間最大2,600万リットルの水が冷却などに使われるとされ(※2)、日本の1人あたりの年間水使用量に換算すると約300人分に相当する(※3)。
例えばアメリカには、現在3,626のデータセンターがあり、規模は平均4万メガワット超えているとされる(※4)。どの冷却方式が選ばれるかによって必要な水量は大きく変わるため、採用される技術や設計が地域、ひいては地球環境への影響を決定づける重要な要素となる。
つまり、データセンターが利用する電力の“質”と水対策のあり方は、そのままAI社会の環境責任を映し出す鏡となり、技術的選択や運用が今後の環境責任を左右するわけだ。
どの冷却方法を選ぶかがカギ。グリーンなAIの最前線
AIの利用拡大によって、さまざまな環境への影響が懸念されているが、その技術はAIによって、最適化を続けている。
多くのデータセンターでは、再生可能エネルギーを高い比率で利用できているものの、冷却の最適解はいまだ出ていない。
ここでは、「環境負荷の最小化」に挑戦するデータセンターの具体例と取り組みを取り上げる。環境負荷を最小化し、AIの発展と地球環境の共存を目指す、次世代型データセンターの姿を見てみよう。
Metaのルレオデータセンター:持続可能性と地域貢献の先進モデル
Facebookで知られるMetaは、AI推論やデータ処理のグローバル拠点の一つとして稼働するスウェーデン北部ルレオに位置するデータセンター(※5)を保有している。
データセンターの電力は100%再生可能エネルギーで賄われ、運用はすでにネットゼロエミッションを達成。さらにMetaは2030年までに水ポジティブ(消費以上の水を自然に還元する状態)を目指している。寒冷な気候を活かした外気冷却、最新のエネルギー効率化技術、そしてAIによる最適運用により、電力使用効率(PUE)は約1.07と、世界平均(約1.56)を大きく上回る水準に達している。
AIによる予測メンテナンスや自動化により、運用コストも従来型施設に比べ30~40%低減。地域経済にも貢献し、300人超の雇用創出とコミュニティ支援も進められている。
Green Datacenter:環境配慮と高性能AI対応のスイス拠点
Green Datacenterはスイスを拠点とし、環境に配慮した運用を強みとするデータセンター事業者(※6)だ。高性能コンピューティング(HPC)やクラウドサービスを幅広く提供し、特にAIのトレーニングや推論など大規模な計算リソースを要するワークロードにも対応しており、金融分野などのAI用途での利用も進んでいる。
同社のデータセンターは、地下水を活用したクローズドループ冷却システムを採用。水蒸発を伴わないため水消費を大幅に抑制する。さらに、電力は主に水力発電などスイスの豊富な再生可能エネルギーを利用し、環境負荷の低減を実現。これにより、高い環境性能とともに安定した高性能AIインフラを提供している。
環境負荷をより減らすため、空冷と液冷を組み合わせたハイブリットデータセンターの計画も進行しており、一部のAIではすでに液冷を用いているという。
Switch:高度な冷却技術と高効率運用でAIインフラの環境負荷を最小化
アメリカ・ネバダ州を拠点とするデータセンター事業者Switchは、AI処理向けの専用クラスタゾーンを擁し、持続可能なデータセンター運用の新たなモデルを示している(※7)。
この施設では、雨水や排水を高度に再利用した冷却システムを導入。膨大な電力を必要とするGPUクラスタによる大規模言語モデルの推論や軽量トレーニングを支えながら、水の直接消費を限りなく抑える先進的な仕組みを構築。さらに、Switchのラスベガス・キャンパスでは電力使用効率(PUE)においても高水準を維持する。
Switchの取り組みは、AIインフラ拡大に伴う水資源の消耗という課題に対し、革新的かつ具体的な解決策を示している。
AIの環境負荷を左右するのは、私たちが「いま」描く未来次第
AIの進化とともにデータセンターの需要が世界的に急拡大するなかで、先に紹介した事例からも明らかなように、AIインフラの環境負荷は企業の選択だけでなく、データセンターを受け入れる国の方針や戦略とも密接に関わっている。
例えば、北欧諸国は再生可能エネルギーの比率が高く、クリーンな電力を活用したデータセンターの立地に適した環境だ。さらに「グリーンデータセンター」を優遇する政策も整備されており、企業にとっても国にとっても持続可能な成長に資する条件が整っている。今後は、どの国・地域をデータセンターの拠点とするかが、AIの環境負荷を大きく左右する時代になるだろう。
一方で、AIデータセンターによる電力需要の高まりを受け、世界では原子力発電の回帰や、脱炭素の動きに逆行しかねない議論も生じている。
AIは、私たちの暮らしを飛躍的に変えていく存在だ。しかし、その恩恵を享受するだけでなく、AIがもたらす未来が環境と調和するものであるかを、私たちは冷静に見極め、選択していく必要があるのではないだろうか。
AIが創る未来は、「いま」私たちが行うあらゆる選択の結果であることを忘れてはいけない。
参考文献
※1:AI is set to drive surging electricity demand from data centres while offering the potential to transform how the energy sector works|International Energy Agency
https://www.iea.org/news/ai-is-set-to-drive-surging-electricity-demand-from-data-centres-while-offering-the-potential-to-transform-how-the-energy-sector-works※2:Energy consumption and environmental impact of data centers|Nature Sustainability
https://www.nature.com/articles/s41545-021-00101-w#:~:text=A%20small%201%20MW%20data,main%20source%20of%20energy%20consumption※3:1人が1日に使う量は、平均221リットル(令和3年度)と仮定。もっと知りたい「水道」のこと|東京都水道局
https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/faq/qa-14#2※4:United States Data Center Market|BAXTEL
https://baxtel.com/data-center/united-states※5:Data Centers and Sustainability|Atmeta Sustainability
https:// sustainability.atmeta.com/data-centers/※6:Enterprise Solutions for Green Data Centers|Green.ch
https://www.green.ch/en/enterprise※7:Sustainability Practices in Data Centers|Switch
https://www.switch.com/sustainability/

Ayaka Toba
編集者・ライター
新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。北欧の持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、タイでPermaculture Design Certificateを取得。サステナブルな生き方や気候変動に関するトピックスに強い関心がある。