CULTURE

環境に配慮したライフスタイル「パーマカルチャー」で持続可能な暮らしをデザインする

 

“観測史上初”というフレーズを目にしない夏はない。気候変動を肌で感じるようになり、日本でもSDGsの広がりとともに、環境のために「自分にできること」を考える機会が増えた。エアコン設定温度、移動は公共交通機関を使うなど、数々の選択肢の一つとして注目を集めるのが、環境に配慮したライフスタイル「パーマカルチャー」だ。

パーマカルチャーとは何か

パーマカルチャーとは、自然と人との共生に着目したライフスタイルのこと。廃棄物をできるだけ出さず資源を有効に利用しながら、高い生産性を叶える持続可能な暮らし方だ。「どうやって持続可能な暮らしをデザインするか」にクローズアップしている。

1970年代に、オーストラリアの生物学者、ビル・モリソンとその生徒のデビッド・ホルムグレンが生み出した造語が始まり。永久的を意味するpermanent、農業を意味するagriculture、文化を意味するcultureが組み合わされている。

農業という言葉に気を取られがちだが、パーマカルチャーはあくまでもライフスタイルの一つ。地球への配慮(Earth care)、人々への配慮(People care)、余剰物の共有(Fair share)という3つの軸(※1)をもとに、人間が自然を搾取せずに共存し、何世代にもわたって存続し、繁栄し続けることを目的とする。

そのため、パーマカルチャーは農業だけではなく、エネルギー、自然建築、林業、廃棄物管理、水産養殖、経済、教育、地域開発など、さまざまな分野にまたがっている。

パーマカルチャー12の原則


パーマカルチャーは、元来からある自然のシステムを最大限に活用する。現在の暮らしに自然システムを取り入れて、環境に配慮した暮らしをデザインすることで、自然の豊かさを取り戻すことを目指している。

よりパーマカルチャーを理解するために、パーマカルチャーの共同提唱者であるデビッド・ホルムグレンが提唱した「パーマカルチャー12の原則」(※2)を見ていこう。

1、Observe and interact(観測と対話)
2、Catch and store energy(エネルギーの獲得と蓄積)
3、Obtain a yield(収穫)
4、Apply self-regulation and accept feedback(自己制御とフィードバックの適用)
5、Use and value renewable resources and services(再生可能な資源とサービスの利用と活用)
6、Produce no waste(ごみを出さない)
7、Design from patterns to detail(パターンから細部までのデザイン)
8、Integrate rather than segregate(分離せず統合する)
9、Use slow and small solution(ゆっくり小さく解決する)
10、Use and value diversity(多様性を生かす)
11、Use edges and value the marginal(境界を活用し、余白を大切にする)
12、Creatively use and respond to changel(変化を創造的に利用し対応する)

12の原則を眺めてみると、パーマカルチャーでは倫理的で持続可能な生き方を原則としていることが分かる。農耕時代を強いるような無理な暮らしという訳ではなく、今自分達が立っている地点を眺めながら、どうやって暮らしに持続可能性を加えるかを考えていく。

どんなエネルギーを使うのか、ごみをどう出さずに暮らすには何ができるか、どんな庭を作ると持続可能なのか俯瞰して考えるなど、私たちのこれからの暮らしに付け足せるヒントが見つかるだろう。

フォレストガーデンがある暮らし


パーマカルチャーを語る上で欠かせないのが、「フォレストガーデン」と呼ばれる自然の仕組みを利用した家庭菜園だ。例えば、普段意識することは少ないが、送粉者(pollinator)と呼ばれる鳥や虫が植物の花粉や種を運んでくれることで、自然は成り立っている。

そこで、フォレストガーデンでは鳥やチョウ、ハチなどが好む多年草の野菜やハーブ、ベリー類、果実や木の実、菌類などを栽培する。さらに庭にハチの巣箱を設置したり、蝶々が羽を休めるスポットを作ったりして、自然界の原始林をまねる。

自然が元来持っている持続可能な循環の仕組みを生かすことには、いくつものメリットがある。例えば、病気の蔓延を防ぐことができるだけでなく、病気や害虫に強く、最終的には私たちの暮らしに有益な送粉者に適した生息地を提供することができる。送粉者によい環境を生み出せれば、土壌が改善され、収穫物から恩恵を受けることができるのはいうまでもない。

フォレストガーデンの魅力は、環境への配慮だけではない。 乾燥に強く、頻繁な水やりを必要としないため、いったん庭ができると剪定、除草、収穫などのメンテナンスはほとんどいらない。手間がかからなければ、より効率的に高い生産性を維持できる。

さらに、パーマカルチャーでは自然界にならって複数年にわたって収穫・開花する多年草を用いるため、家計への負担も減らせる。食卓の彩りに欠かせないネギや、ローズマリーやミントなどのハーブを欲しい時に手に入れることができる。最も環境負荷が小さい自産自消が簡単に生活に取り入れられるという訳だ。

他にも、生ごみを堆肥化する“コンポスト”、互いの成長に役立つ植物や、互いを守る植物を一緒に育てる“コンパニオンプランツ”、都会の空き地や屋上を活用した“アーバンガーデン”など、パーマカルチャーの取り組みは誰でもどこでも小さく始められる。

今日から始めるパーマカルチャー


そうはいっても何から始めるべきかわからないという人は、窓辺に小さな家庭菜園を作ってみるといい。ただし、新しい鉢植えや用具を買うのではなく、家にある物、とりわけゴミになるものを活用してみよう。

いらなくなった新聞紙をコップのように丸めてポットに見立て、土を入れる。タネから芽が出てより大きな鉢植えや畑にうつす時は、新聞紙のままでいい。紙は自然に分解されるので、そのまま定植することができる。ちなみに、現在の新聞紙の多くは、大豆からできたソイインクが使われており自然に優しい。

パーマカルチャーはすでにたくさんの先駆者がいるが、「これをすべきである」「こうあるべきだ」という考え方に囚われる必要はない。理論では相性が悪いとされる植物も植えてみるとうまく育ったり、各土地の気候によって条件や方法は常に変わったりすることは日常茶飯事だ。

「パーマカルチャーの12の原則」にある「Observe and interact(観測と対話)」と「Design from patterns to detail(パターンから細部までのデザイン)」を繰り返し、理論に縛られるのではなく、一歩下がり“木を見て森を見ず”を意識しよう。

気候変動への解決には、いつもの暮らしに疑問を持ち、小さな変化を生み出すことが欠かせない。ただ、決して我慢して生きるのではなくて、継続してできることを見つけなければ持続可能ではない。パーマカルチャーの理論から自分にできるヒントを見つけて、ぜひ暮らしに取り入れてみよう。

参考文献

※1 ​​https://permacultureprinciples.com/ethics/
※2 https://earth.fm/updates/permaculture-principles/

WRITING BY

Ayaka Toba

編集者・ライター

新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。北欧の持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、タイでPermaculture Design Certificateを取得。サステナブルな生き方や気候変動に関するトピックスに強い関心がある。