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PHILOSOPHY

幸福であることとは?世界幸福度ランキングで2位のデンマークから学ぶその秘訣

幸福であることとは?


幸福とは何かーー。人類にとって永遠のテーマであり、決して逃れることができない究極の問いでもある。仕事をするのも、美味しいものを食べるのも、元を辿れば幸福につながっていると言っても過言ではない。

19世紀に活躍したイギリス哲学者、J.C.ミルは、同じくイギリスの哲学者ジェレミー・ベンサムが提唱した功利主義を受け入れつつも、幸福を“他人を阻害せず自分自身の幸福を追求すること”と定義した。つまり、ベンサムが幸福を「The sum of pleasures and pains.(喜びと苦痛の合計)」と量的に表したのに対し、精神的(質的)に自分が幸せだと感じることこそ幸福であると理論付けた。

では、自分自身の幸せとはどこから生まれるのか。その一つのヒントとして、毎年国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が発表するWorld Happiness Report(※1)がある。GDP・平均余命・寛大さ・社会的支援・自由・汚職レベルの6つの要因から導かれ、最新の2022年版では日本人の幸福度は世界54位。ランキングトップは5年連続でフィンランド、その後ろにデンマーク、スイス、アイスランド、オランダと続く。

World Happiness Reportが示すのは、経済的な幸せではない。「自分の生活に満足しているか」だ。所得が多くても、税制度が平等でなければ幸せとは感じられないし、汚職が蔓延っている社会では不平不満が生まれ生活満足度は低い。

幸福度の高い北欧圏


ランキングを眺めてみると、北欧5か国のデンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・アイスランドがトップ8にランクインしていることに気が付く。なぜ彼らの幸福度は総じて高いのだろうか。

まず、北欧圏の社会保障の充実を思い浮かべる人が多いかもしれない。例えば、ランキング1位のフィンランドでは国民皆保険制度によって、いわゆるかかりつけ医に診てもらうには費用は無料。時間外や入院などの場合、有料ではあるが日本と比べれば安い。市民はもちろん、フィンランドに1年以上滞在できるビザがあれば、同様のサービスを受けることが可能だ。

これらを可能にするのは、税制度にある。フィンランドの2019年の国民負担率は42.1%(※2)と、日本の31.8%やOECD平均33.8%と比較してもその高さが伺える。

他にも教育、仕事、失業などあらゆる面において、手厚い社会保障がそろうのが北欧圏だ。

デンマークやノルウェー人の考える幸福とは


「いくら社会保障やセーフティーネットワークが充実していても、手元に残るお金が少ないのに、幸せなのだろうか」。

幸福度世界第2位のデンマークで留学を始めて3か月。私のそんな北欧へのイメージは大きく変わった。“北欧の人たちの幸せ”を肌で感じられるからこそ、日本との違いに驚かされ、同時に学ぶことが多い。

デンマークに来てすぐ、ノルウェー人のクラスメイトに「日本では人よりたくさん稼ぐことが一つの幸せの基準になる。こちらではどう?」と尋ねたことがある。彼女は淡々と「私の周りにはそういう価値観はないね。大切なのは自分や家族、友達との時間。だから就業時間になればすぐ帰宅するし、休みの日に仕事のことを考えることはないのよ」。

そうは言ってもお金は大切なはず。「でも多くあったほうがいいでしょ?」と、矢継ぎ早に質問した。「確かにお金をより稼ぎたいという価値観はある。でもあくまでも自分の幸せや趣味に関するためであって、人と比べるためではないね」と話してくれた。

さらに、デンマーク人の友人にも「あなたにとっての幸福とは」と聞いてみた。

「自分や家族、友達との時間を持つこと」
「生活に満足していること」
「自分自身を信じてOKな状態でいること」
「自分の感情を感じること」

いずれも自分の時間を持つことや感情の満足が一番だという。リッチになるや、成功を収めるといった答えは聞かなかった。

デンマークの幸福の秘訣“ヒュッゲ”


デンマークの幸福を語る上で、ヒュッゲ(Hygge)という言葉を避けては通れない。デンマーク語で「居心地がいい空間」や「楽しい時間」を意味する。デンマークだけでなく北欧諸国に共通する価値観だ。

具体的に言うと、ロウソクを囲んで家族でディナーを食べたり、天気の良い日に芝生で昼寝をしたり、友達とパーティーで騒いだり。特別なことはしなくても、自分の内側からポジティブなパワーが湧き上がってくる空間や時間をヒュッゲと呼ぶ。

そして、デンマーク人と生活を共にしてみて思うのは、彼らはヒュッゲを作るのがとてもうまい。気分が乗らない時の対処法やついつい長居してしまう心地いい空間の作り方など、いつも「どうすればヒュッゲになるか」を考えている。

例えば、洗練された北欧デザインもヒュッゲと大きな関係がある。居心地のいい空間作りに全力を注ぐデンマーク人だからこそ、色合いやデザインがヒュッゲかに重きを置く。

デンマークのデザインは機能性が高く、シンプルで洗練されたものが多い。自然を感じられる木製の家具や暖かな優しい光のライトは、デンマークの至る所で見かける。また、世界一ロウソクを消費するデンマークでは、スーパーに色とりどりのロウソクが並べられている。

つまりヒュッゲとは、単にオシャレに部屋を飾る、家族や友達と過ごす時間というものではない。自分の心地よさ=幸せな気持ちを生み出すために、時間、空間、考え方をどう使うのかというデンマーク人のマインドセットなのだ。

自分の気持ちを一番に。でもわがままではない


自分の気持ちを一番大切にすると聞いて、「欧米人はわがまま」とイメージした人は少なくないだろう。ただ、デンマーク人は自分の気持ちを第一にしながらも空気を読む。Nordic Japanese(北欧の日本人)と自らを形容したデンマーク人には思わず唸ってしまった。

彼らはただわがままなのではない。日本人が場の空気を読むのと同じく、自分の心地よさを追求しても、他人を害することはしない。それでも日本人のように他人の意見や視線を意識しすぎないし、いい意味で他人に関心がない。そのバランスの良さに憧れるほどだ。

あくまでも自分の軸は、自分の中にあると彼らは考える。つまり他人との比較からではなく、自分が幸せかどうかを感じることを大切にしている。

気分が乗らないときや、集団で過ごすのが難しいメンタルの時は一人の時間を持つようにする。それは決して、他人の気分を害するほどのものではない。社会やコミュニティの中で、人の気分が悪くならないくらいわがままでいるのがうまい。

自分の人生は、自分で彩っていく


デンマーク人の幸福とは、自分の機嫌を自分でとりながらも、他人を害することなくヒュッゲを作り上げていくことだ。確かに税金として支払うお金は多いかもしれないが、社会保障が充実しているからこそ、自分の幸せに集中できる。

手元にあるお金が幸せを生み出してくれるのではなく、あくまでもお金はヒュッゲを作り上げるために必要なもの。だから、人よりも貯金があるとか、人の意見や視線を気にしない。自分で自分を幸せにするために、最低限だけ働く。

幸福とは何かは十人十色ではあるが、いずれの幸福も自分の内側から溢れ出てくるものだとデンマーク人の“幸せ”を間近で見て思う。他人との比較からではなく、自分の中にある幸福を集めることが、「幸福とは」の答えに近づくヒントなのかもしれない。

参考文献

※1 The World Happiness Report 2022 
https://worldhappiness.report/ed/2022/
※2 フィンランド経済の概要|在フィンランド日本国大使館 
https://www.fi.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00028.html

WRITING BY

Ayaka Toba

編集者・ライター

記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学中。

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