SCIENCE
「記録更新」から「高止まりの常態化」へ。異常気象が当たり前の時代に、社会はどう適応するか
目次
かつては「異常気象」と呼ばれた猛暑や豪雨が、少しずつ輪郭を失い、「観測史上初」が驚きの言葉ではなくなりつつある。2026年もまた、その変化を強く印象づける年になった。
気候危機は、もはや「いつか起こる危機」ではない。高温や大雨が繰り返されるなか、変化のスピードに追いつけない制度やインフラの限界も、世界各地で浮かび上がっている。
今回は、単に被害の記録更新を追うだけではなく、異常気象が日常になった時代における「継続的な適応」のかたちまでを見つめ直したい。変化する環境に社会や暮らしをどう合わせていくのか。そして、私たちは日々の生活のなかで、どう備えていけばいいのか。毎年のように訪れる酷暑や異常気象との向き合い方を改めて考える。
世界が「史上最高」「歴代級」に慣れていく

2026年7月、「観測史上最も暑かった月」と並ぶ暑さを記録した。世界の平均気温はアメリカ海洋大気庁(NOAA)の分析で2024年7月と並び観測史上最高となり、20世紀平均を約1.18℃上回った(※1)。2025年7月が歴代3位だったことを考えると、「去年とほとんど変わらない暑さ」と受け止めてしまいそうだ。しかし、その背景には、自然変動と地球温暖化が重なり合う構造的な変化がある。
その象徴が、世界中で想定を超える規模の「異常気象」をもたらすエルニーニョだ。気象庁のエルニーニョ監視速報によると(※2)、2026年春から続くエルニーニョ現象は、8月時点で異例の強さを見せた。
エルニーニョによる暑さは、世界各地に牙を剥いた。フランスでは6月以降に熱波が相次ぎ、熱波の日数は1947年の記録開始以来、最も多くなった(※3)。日本でも40℃超えの連続日数が観測史上最長を更新し、延べ36地点で「酷暑日」を記録した(※4)。皮肉にも、2026年4月に定義されたばかりの「酷暑日」はわずか数か月で、ニュースの中で繰り返し耳にする言葉になった。
東アジア・南アジアでは季節風性の豪雨(モンスーン)が中国・韓国・バングラデシュを襲い、中国では70万人が避難した。一方、日本では梅雨・秋雨前線による記録的大雨が、ヨーロッパでは熱波と干ばつが同時多発した。
暑さも、豪雨も、もはや「今年の異常気象」という一過性の見出しでは語りきれない。2023年から2026年までの4年間、世界の7月の平均気温は歴代上位を独占し続けている。
晴れた日のネパールで起きた、かつてない水害
2026年8月26日朝、ネパールを流れるボテコシ川の上流で、ヒマラヤの氷河の一部が崩れ落ちた。その瞬間を捉えた映像は世界中で拡散され、目にした人も多いだろう。晴れ渡った空の下、突然の崩壊は大規模な鉄砲水と土石流を引き起こした。
ネパール最大の英字新聞The Kathmandu Post(※5)によると、2026年9月12日時点での死者は1386人、行方不明者は5130人とされる。
原因は、まだ完全には特定されていない。アメリカ地質調査所(USGS)は当初、この事象をマグニチュード4.4の地震として扱ったが、実際には地震ではなく、ランタン国立公園付近で発生した氷河を伴う斜面崩壊が原因だった可能性が高いとみている。崩壊が生じたエネルギーはマグニチュード5.2の地震に相当するとされる(※6)。
防ぐ余地はなかったのか。専門家は、今回の災害が「大雨や河川増水を監視するために設計された警報システムの盲点」を露呈させたと指摘する。上流の河川水位計は、警報値に達する前に洪水によって破壊されていたからだ。
洪水発生から間もなく、ネパール政府からは今回の災害を気候変動によるものだとする発言が相次いだ(※7)。温暖化への寄与がごくわずかなグローバルサウスが、最も深刻な被害を受ける、いわゆる「気候正義(クライメート・ジャスティス)」の構図が、改めて炙り出された。
予報という名の、警告

これから先には何が待っているのだろうか。NOAAの気候予測センターは9月10日、このエルニーニョが今後さらに強まり、今年から来年にかけて「非常に強い」事象となる確率は90%を超えると発表した。非公式に「スーパーエルニーニョ」と呼ばれる事象は、1950年以降のすべての記録を上回る「歴史的な事象」になる確率も75%あるという(※8)。
ネパールの氷河災害についても、国連機関から警告が出ている。国連開発計画(UNDP)アジア太平洋局長は、ヒマラヤ地域が今後も氷河崩壊に起因する洪水の深刻なリスクに直面し続けると指摘した(※9)。現在把握されている危険な氷河湖によってリスクにさらされる人口は、「数百万人規模」に達するという。
追い打ちをかけるように、9月2日には国連環境計画(UNEP)が公表した新たな報告書によると、産業革命前と比べた世界的な気温上昇の上限ラインとされる1.5℃を超えることがほぼ確実だという(※10)。今夏の記録的な暑さや山火事、洪水は、まさに「この先に待つもの」の前触れだと、報告書は警告する。
緩和と適応、今どちらが必要か
とはいえ、東日本では「2026年の夏は、昨年より涼しい」と感じた人が多かったかもしれない。実際、2026年は平年並みの気温だった一方、記録的な長雨や豪雨が相次いでいた。
梅雨の6月、台風の影響なども重なり東京都心では月間降水量が436.5mm(平年比260%)(※11,12)に達し、60年ぶりの大雨を記録。8月には千葉県で、観測史上1位の記録的豪雨が発生した。さらに9月に入ってからは東京都心で「16日連続の雨」など、異常続きだ。
地球からの“警告”を前に、私たちは何を優先すべきなのか。かつて気候変動対策の議論では、二酸化炭素の削減、すなわち「緩和」こそが最優先の課題とされてきた。エネルギーのあり方を変え、再生可能エネルギーへ転換することが、1.5℃目標を達成する唯一の道だとされてきたからだ。その主張は、今も変わっていない。
しかし、緩和だけでは間に合わない速さで変化は進む。UNEPの報告書が認めるように、1.5℃という節目は、もはや「超えないための目標」ではなく「超えてから、いかに早く戻ってくるか」という前提に変わりつつある。
小さくても、今日からできることを

緩和(削減)と適応(備え)は、どちらか一方を選ぶものではなくなっている。今起きている変化に、暮らしと社会をどう合わせていくか。その両輪こそが、2026年に問われている現実的な選択だ。
「緩和」の面では、再生可能エネルギーへの切り替えは、今も有効な一歩だ。ただし、これを実践しても、暑さや異常気象がすぐに収まるわけではない、という現実も正直に受け止めておきたい。
だからこそ、もう一つの軸である「適応」にも目を向けたい。キーワードは「知る」「備える」「支援する」だ。
知る
気象庁の「キキクル(危険度分布)」や自治体のハザードマップで、自分の住むエリアの浸水・土砂災害リスクを確認する。「顕著な大雨に関する情報」「線状降水帯予測情報」の通知を、スマートフォンで設定しておく。警戒レベル(レベル3=高齢者等避難、レベル4=全員避難)の意味を、今のうちに再確認しておく。
加えて、環境省・気象庁が発表する「熱中症警戒アラート」も、日々の外出判断の材料にしたい。
備える
短時間豪雨が増える前提で、非常用持ち出し袋や避難経路を見直す。特に低地・崖地・河川近くに住んでいる場合は、避難先とルートを具体的に決めておく。
また、猛暑日や酷暑日には、日中の活動時間をずらす、エアコンの使用を我慢しないなど、暑さに対する“日常的な備え”も同じくらい重要になっている。
支援する
ネパールなど被災地の復興支援や、氷河・洪水の早期警戒システムを開発する研究機関・NGOへの寄付は、直接的な支援になる。寄付先を選ぶ際は、実績や資金の使途が公開されているかを確認したい。
また、防災・レジリエンス分野に取り組む企業やサービスを選ぶことも、間接的に”適応”を後押しする一つの選択といえる。
どこか自分には関係ないことだった気候変動の影響が、私たちの生活に実害を及ぼし始めている。地球全体の気温を、個人の行動だけで下げることはできない。それでも、今日できることを一人ひとりが積み重ねながら、もしもに備えることはできる。無力感に苛まれても、それこそが今、確実にできることの一つではないだろうか。
参考文献
※1 Assessing the Global Temperature and Precipitation in July 2026|NOAA National Centers for Environmental Information
https://www.ncei.noaa.gov/news/global-climate-202607
※2 エルニーニョ監視速報 (No. 408)|気象庁
https://www.data.jma.go.jp/cpd/elnino/kanshi_joho/c_kanshi_joho.pdf
※3 France measures more than 7,300 excess deaths – and counting – during historic heatwaves|France24
https://www.france24.com/en/france/20260819-france-experienced-more-than-7-300-excess-deaths-during-historic-heatwaves
※4 令和8年夏を対象とした異常気象分析検討会の結果について|気象庁https://www.jma.go.jp/jma/press/2609/01c/kentoukai20260901.html
※5 August flood death toll rises to 1386, with 5130 still missing|The Kathmandu Post
https://kathmandupost.com/national/2026/09/12/august-flood-death-toll-rises-to-1386-with-5130-still-missing
※6 2026 Nepal Debris Avalanche and Flash Flood|アメリカ地質調査所(USGS)https://www.usgs.gov/programs/landslide-hazards/science/2026-nepal-debris-avalanche-and-flash-flood
※7 The Ministry’s regular Press Briefing- 11 September 2026|Goverment of Nepal
https://www.mofa.gov.np/content/1884/the-ministry-s-regular-press-briefing–11-september/
※8 EL NIÑO/SOUTHERN OSCILLATION (ENSO)DIAGNOSTIC DISCUSSION |CPC
https://www.cpc.ncep.noaa.gov/products/analysis_monitoring/enso_advisory/ensodisc.html
※9 NEPAL FLOODS 2026|UNDP Asia and The Pacific
https://www.undp.org/asia-pacific/nepal-floods-2026
※10 UNEP: World set to cross 1.5°C global warming, but can still limit, adapt to and return from higher temperatures|UNEP
https://www.unep.org/news-and-stories/press-release/unep-world-set-cross-15degc-global-warming-can-still-limit-adapt-and
※11 東京都 観測史上1~10位の値(6月としての値)|気象庁https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/rank_s.php?prec_no=44&block_no=47662&year=&month=6&day=&view=h0
※12 東京都 平年値(年・月ごとの値)|気象庁
https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=44&block_no=47662
Ayaka Toba
編集者・ライター
新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。北欧の持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、タイでPermaculture Design Certificateを取得。サステナブルな生き方や気候変動に関するトピックスに強い関心がある。

