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TECHNOLOGY

2026年に到来が予想されている「AI学習用データ枯渇問題」とは?

Close up stock photo of an Asian woman carefully studying moving data on her computer screen, the screen is unusual as it is transparent and the camera is looking through the back of the screen.

人間社会において広くAIの普及が進んだ2025年が終わり、新年が始まった。

引き続き新産業として活躍のプレゼンスを爆発的に拡げると予想されるAIだが、今年2026年はそんなAIの成長にブレーキをかけるある問題の到来が噂されている。いわゆる「AI学習用データ枯渇問題」だ。今年2026年にも生じる可能性が高いとされるこの問題について、現況と見通しなどをお伝えする。

「AI学習用データ枯渇問題」とは?

「AI学習用データ枯渇問題」とは、文字通りAIが学習するためのデータが枯渇し、結果的にAIの学習ができなくなるか、または学習やアウトプットの精度やクオリティなどにブレーキがかかるとされる問題のことだ。

AIの基盤技術とされるLLM(Large Language Model、 大規模言語モデル)は、大量のデータをディープラーニングで学習し、人間と同じ様に言葉を理解して対話を成立させる技術だ。AIは、人類が築き上げてきた既存のテキストデータを学習することで単語や文法などを理解し、会話、ライティング、翻訳、サマライズといったタスクを実行している。しかし、人類が残した膨大な量のデータをベースに学習を重ね、能力を増し続けてきたAIが、学習するためのデータの枯渇に直面し、学習そのものが出来なくなってしまうというのだ。

この「AI学習用データ枯渇問題」の警鐘を鳴らしているアメリカのリサーチグループのエポックAIは、早ければ今年2026年にも「AI学習用データ枯渇」が生じると予想している。

膨大な学習用データを必要とするAI

A network of intelligent nodes representing autonomous AI agents processing and writing programming code. Illustrates concepts like AI-assisted development, machine learning models, and generative AI tools.

では、AIはどの程度の量の学習用データを必要とするのだろうか。Facebook持ち株会社メタが開発中のLlama3の最新バージョンは、これまでに累計15兆トークンのデータをベースに学習を続けている。 1トークンは1ワードに相当するので、テキストベースで15兆ワード相当のデータをベースにしている計算だ。

またOpenAIのChatGPT3.5は、3000億ワード相当のテキストデータをベースに学習したと推定されている。 人間の尺度と比較すると、一人の人間が一般的な長さの小説を一日一冊80年間毎日読んだとしても30億ワード程度の分量だと言うのだから、スケールの違いがわかるだろう。さらにChatGPT4.0の学習データ量はChatGPT3.5の22倍とされており、6.6兆ワードに相当する。AIの性能向上に伴い学習に必要なデータ量も相応に増加することがおわかりいただけるだろう。

このように、AIが学習するデータはまさに幾何級数的に増加している。AIが学習するデータ量は、年率平均で250%増加し、同時にAIのコンピューティング処理能力も年率400%向上している。AIがアクセス可能なデータの量が限定的である一方、AIの学習能力はムーアの法則よろしく成長し続けているのだから、学習用データが枯渇するのも当然だ。ところで、「AI学習用データ枯渇問題」は、AIの能力が人間を上回るとされる「シンギュラリティ」到来の予兆として目に映るのは、果たして気のせいだろうか。

AI学習用データが枯渇するとどうなる?

では、AI学習用データが枯渇するとどうなるのか。関係者が口を揃えるのがAIの能力停滞または劣化だ。AI学習用データ不足の中でもとりわけ危惧されているのが「高品質データ」(High Quality Data)とされるデータの不足だが、「高品質データ」とは「正確性」「完全性」「一貫性」「関連性」などを十分に満たしたデータのことだ。具体的には、テキストデータの場合、科学・技術論文、各種のリサーチペーパー、権威ある著者による書籍、新聞・雑誌記事、政府や企業などが公開した一次情報などが挙げられる。AIは、こうした「高品質データ」を学習することで自らの能力を高め、アウトプットのクオリティを維持している。

AIが「高品質データ」へアクセスできなくなるとどうなるか。その瞬間からAIのアウトプットが相応に劣化する。学習のベースとなるデータの量と質が限定的になれば、学習の内容やアウトプットの質も当然に低下するのは当然だ。これまで当たり前のように認識されていたAIの恒常的な進化がストップし、場合によっては「明らかな誤情報」などがアウトプットされるようになるかも知れない。

AI学習用データの枯渇にすでに直面しつつあるマイクロソフトは、自社のAIの学習先にX(旧Twitter)を指定したところ、学習開始からわずか24時間でXに投稿された数々の個人ユーザーのツイートをベースにしたアウトプットを発するようになったという 。アウトプットの多くは誹謗中傷や人種差別などのバイアスがかかったもので、問題発言とすべきものも少なくなかったという。

XやFacebookなどのSNSで発信される情報は「低品質データ」(Low Quality Data)の代表格であり、AIの学習先として適切ではない。「高品質データ」が枯渇する中、その代替として「低品質データ」へ学習の対象をシフトしてしまうと、AIの能力そのものが「低品質」になってしまう。新産業として順調に成長を続けてきたAIが、成長が停滞するフェーズを迎えることになる可能性が高いのだ。

「AI学習用データ枯渇問題」への対応策

Vector illustration featuring collage of torn paper and newspaper clippings with Artificial Intelligence related news headlines.
AI news topics: AI-generated art, AI-bots, AI Models, AI Video, automation etc.

では、迫りくる「AI学習用データ枯渇問題」に対する対応策はあるのだろうか。対応策のひとつはAIアルゴリズムの改良だ。現在開発中のLLMベースのAIは、前提として膨大な学習データの存在を必要としている。それを、現在よりもより少ないデータで学習できるようにし、これまでに蓄積されたデータをより精密に学習させることで使用するデータ量を減らすという取り組みだ。

また、合成データ(Synthetic Data)の活用も挙げられる。合成データとは、実際のデータを模倣するように作られた人工的なデータだ 。統計的手法をもとにディープラーニングなどを使って生成される。合成データは人工的に作られたデータではあるものの、実際のデータの統計的な特徴を保持しており、実際のデータを補完したり置き換えたりして利用することが可能だ。合成データの活用により、AI学習用データの量を一定程度削減することが期待される。

さらに、「高品質データ」の新たな供給源を模索する動きも始まっている。特に注目されているのが新聞社や出版社などが保有する膨大な量の過去のテキストデータだ。それらの多くはインターネット時代よりはるか前から存在し、文字通り過去の遺産として各社内に保存されている。それらの多くは紙媒体などのアナログの状態で保存されているか、デジタル化されている場合でも無料でアクセスできないものがほとんどだ。

大手メディア企業は現在、主なAI開発企業と、自社が保有する過去の膨大な「ニュースアーカイブ」へのアクセスについての協議を続けている。いずれAI開発企業が一定のコストを支払ってデータへアクセスできるようになると思われるが、こうした動きは今後さらに広まってゆくだろう。

ユーザーへの影響は?

A stylish businesswoman intently reviews information on her tablet. Soft focus colleagues in the background suggest a dynamic office environment.

ところで「AI学習用データ枯渇問題」は、ユーザーにどのような影響があるだろうか。日本でも生成AIなどを日常的に使うなどAIの利用シーンが広がっているが、主なAIプラットフォームが学習用データの枯渇に直面して性能停滞や劣化などの状態に陥れば、ユーザーはダイレクトにその影響を受けることになるだろう。AIのアウトプットが劣化し、ユーザーがそうした異変に気付くようになれば、AIに対する信用と信頼が低下する可能性がある。

「AI学習用データ枯渇問題」への対応策としてAI開発企業がコスト負担して未開拓のテキストデータへのアクセスを確保した場合、そのコストがユーザーに転嫁される可能性もある。現時点では多くのAIプラットフォームが無料で利用できるが、有料と言う形でコスト負担を強いられるようになるかも知れない。

また「AI学習用データ枯渇問題」に対応するべく、各AI開発企業がデータ所有者との連携を進めると、それぞれが所有するデータにAIのアウトプットが依存する形になり、結果的にそれぞれのAIのアウトプットに一定の「特徴」や「傾向」あるいは「専門性」や「優劣」などが生じる可能性もある。言うなればAIごとの能力や特徴などに差異が生じるわけだが、別の見方をすれば、AIがそれぞれ個性を発揮し始めるということだろう。
2026年は、AIがそれぞれの個性や特徴、そして明らかな能力の差を見せ始めるターニングポイントと呼ぶべき年になるかも知れない。

参考文献

https://www.pbs.org/newshour/economy/ai-gold-rush-for-chatbot-training-data-could-run-out-of-human-written-text-as-early-as-2026
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11472406/
https://theconversation.com/researchers-warn-we-could-run-out-of-data-to-train-ai-by-2026-what-then-216741
https://www.ibm.com/jp-ja/think/topics/synthetic-data

WRITING BY

前田 健二

経営コンサルタント・ライター

事業再生・アメリカ市場進出のコンサルティングを提供する一方、経済・ビジネス関連のライターとして活動している。特にアメリカのビジネス事情に詳しい。

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