900_750-100

SCIENCE

世界で加速する「16歳未満のSNS禁止」。脳科学が警告するリスクと、日本が直視すべき“規制の差”

social media use concept. preteen boy writing with red marker pen this problem on the screen

やめられないスマホのスクロール、SNSの情報や投稿を見逃すことへの不安、そしてオンライン上の詐欺・性被害といった犯罪に巻き込まれるリスク──。ここ数年、世界各地で子どものSNS利用を制限・禁止する動きが急速に強まっている。その背景にあるのは、SNSが発達途上にある子どもに与える深刻な影響だ。

いまやSNSがもたらすリスクの深刻さは、単なる「使い方の問題」や「個人の責任」では片づけられず、国や自治体が介入すべき「公衆衛生上のリスク」として再定義されつつある。

なぜ世界はいま、個人の自由に委ねられてきたプラットフォームに対し、「禁止」や「最低年齢の設定」といった強い措置へ踏み切り始めたのか。今回は、各国の最新の対応と、脳科学・心理学が示すエビデンスを重ね合わせながら、日本でこれから本格化するであろう議論の論点を整理していく。

オーストラリアは世界で初めて16歳以下のSNS利用を禁止

オーストラリア政府は2025年12月10日、世界で初めて16歳以下の子どもによるSNS利用を全面的に禁止する法律を施行した。SNSを運営する企業には、16歳以下にアカウントを開設させない義務が課され、違反した場合は最大4,950万豪ドル(約51億円)の制裁金が科される。

背景にあるのは、オーストラリアの子どもたちが直面するさまざまなリスクだ。同国のネット安全監督機関であるeSafety Commissionerが行った調査(※1)によると、国内の10〜15歳の子どもの96%が少なくとも1つのソーシャルメディアを利用している。そのうち、経験したことがあることとして、

・71% が「危害に関連するコンテンツに遭遇した」
・52% が「ネットいじめの被害に遭った」
・24% が「オンラインで性的嫌がらせを受けた経験がある」
・14% が「オンラインでのグルーミング行為(成人や年長者が性的目的で手なずける行為)を経験した」

などと回答している。政府はこれらを“個人の使い方の問題”ではなく、公衆衛生のリスクとして捉え、強力な規制に踏み切った。

オーストラリアの決断を皮切りに、世界でも同様の動きが加速している。

デンマークのフレデリクセン首相は2025年10月、15歳未満のSNS利用を禁止する方針を発表した。ロイター通信の報道によると(※2)、若年層のメンタルヘルスへの懸念を理由に利用制限の方針を打ち出したという。「SNSは幼少期を奪う」とし、早期での法案成立に向けて調整が進められている。

さらに、EUの立法機関である欧州議会(European Parliament)は2025年11月、未成年者がオンラインで直面する心身の健康リスクへの懸念から、SNSや対話型AIなどを利用できる最低年齢を16歳とするよう求める決議を承認した(※3)。法的拘束力はないものの、EU全体での年齢規制やプラットフォーム設計の見直しに向けた重要な一歩とされている。

SNSが子どもの脳にもたらす影響

A young girl with a backpack holds her phone while standing on a school staircase. Back to school concept.

なぜ、子どもに対してこれほどまでの規制が必要なのだろうか。まずキーワードとなるのは、SNSの中毒性の高い設計だ。SNSを使っている人なら一度は経験があるかもしれないが、無限スクロールや自動再生などの仕組みによって、気がつけば数時間が過ぎてしまったということは珍しくない。

SNSの設計は、報酬系が働きやすい特徴を持つ。スマートフォンが視界に入るだけで、特に用がなくてもSNSを開きたくなることがあるのは、過去に“いいね”や面白い投稿を見つけたときに生じたドーパミンの快感が、脳に強く学習されているためだ。

次々と現れる目新しい情報を逃したくない、もっと面白い投稿があるかもしれない──。そう感じてしまうのは、報酬を求め続ける人間の脳の自然な反応といえる。

しかし、それが子どもの脳となると事情は異なる。一般的に、脳は25歳前後で成熟するとされており、発達段階にある子どもや思春期の若者は、SNSの刺激に対して影響を受けやすい。

つまり、衝動を抑える力や“自分でやめどきを決める力”が十分に整っていない状態だ。さらに、情動を司る扁桃体は、子どもだとストレス刺激に対する反応性が高くなりやすい。そのため、SNSでのやり取りや比較が引き起こす不安・恐怖・怒りといった感情が、大きく揺れ動きやすくなる。

SNSが引き起こす「社会比較」

close up hands of two girls holding mobile phones and exchanging pictures

認知における課題も指摘されている。認知とは、物事をどのように捉えるかという“心のレンズ”であり、私たちがストレスを感じる仕組みに深く関わっている。

例えば、電車で足を踏まれたときにかっとなるのか、「混んでいるから仕方ない」と受け取るのかで、感じるストレスは大きく変わる。つまり、出来事そのものよりも“どう解釈するか”のことを指す。

SNSの利用に当てはめると、SNSでは他者の生活の“良い部分”だけが切り取られて見えるため、それらと自分を比べてしまう社会比較(Social comparison)が生じやすい。その結果、現実をゆがめて解釈したり、「自分は劣っている」という認知の歪みを形成しやすいことが指摘されている。

こうして社会比較が増えると、自己否定感や孤独感の高まりを引き起こす。

実際に、11歳時のSNS利用が17歳時の心理的苦痛に間接的に関わることを縦断的に分析した調査(※4)では、特に女子において思春期の若者におけるSNS利用は、直接的に精神的健康に影響するだけでなく、仲間への不信感や睡眠リズムの乱れ、自己イメージの低下といった心理的プロセスを通じて、抑うつや不安、自傷行為などのリスクを高めることが示されている。

日本での16歳未満のSNS利用はどうあるべきか

日本国内でも、子どものメンタルヘルスの悪化は深刻化している。文部科学省によると、いじめの認知件数は2024年度に769,022件と過去最高を記録した(※5)。大人の目が届かないSNS上でのいじめやネットトラブルも増えており、学校や家庭だけで対応するには限界があることが明らかだ。

一方で、だからといってSNSを全面的に禁止することが最善なのかという疑問も残る。SNSはあくまでも「道具」であり、すべてが悪ではない。

その点、オーストラリア政府がSNS運営業者に対して罰金を科す仕組みを導入したことは、規制の責任を家庭や子どもだけでなく企業側にも明確に求める点で大きな転換点となりうる。しかし、子どもたちが何らかの抜け道を使って利用を続けてしまう可能性も指摘されており、法規制のみで目的を達成できるのかは今後の注目点となるだろう。

では、日本が向き合うべき視点は何か。

まずは「なぜ」を正しく認識することから

A boy reads a story on a smart phone by a campfire.

これだけ生活の一部となっているSNSをいきなり取り上げるのは現実的ではないし、SNSが人々の交流を活発化させ、幸せにつながるという研究結果もある。

いま重要なのは、実際に起きている事実を理解した上で、「なぜ起きてしまうのか」「何に注意すべきか」に向き合うことだ。

その上で、子どもが安全かつ健全に暮らしていくためには、個人の努力に委ねるのではなく、家庭・学校・政策・企業のそれぞれがどこまで責任を担うのかを整理する必要がある。SNSがもたらすメリットとリスクを科学的に踏まえ、家庭でのルール作りや学校教育、そして企業側の設計や国の規制がどう組み合わされるべきか──。

これからの日本に求められるのは、こうした包括的な視点ではないだろうか。

参考文献

※1 Digital use and risk: Online platform engagement among children aged 10 to 15|eSafety Commissioner
https://www.esafety.gov.au/research/the-online-experiences-of-children-in-australia/report-digital-use-and-risk-among-children-aged-10-to-15

※2 デンマーク、15歳未満のソーシャルメディア利用禁止へ|ロイター通信
https://jp.reuters.com/world/us/AG5N73SXR5KU3HCN7OQRMO7MOA-2025-11-10/

※3 Children should be at least 16 to access social media, say MEPs|欧州議会 (European Parliament)
https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20251120IPR31496/children-should-be-at-least-16-to-access-social-media-say-meps

※4 Zhang, Y., et al. Title of the Article. Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology, 2025.
https://link.springer.com/article/10.1007/s00127-025-02999-w

※5 令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要|文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20251029-mxt_jidou02-100002753_2_5.pdf

参考文献:Casey, B. J., Jones, R. M., & Hare, T. A. (2008). The adolescent brain. Annals of the New York Academy of Sciences, 1124, 111–126.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18400927/

WRITING BY

Ayaka Toba

編集者・ライター

新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。北欧の持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、タイでPermaculture Design Certificateを取得。サステナブルな生き方や気候変動に関するトピックスに強い関心がある。

900_750-100