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BUSINESS

脱化石燃料は実現できるのか?ドーナツ経済から考える次世代エネルギーの未来

脱化石燃料は実現できるのか?ドーナツ経済から考える次世代エネルギーの未来

加速する地球温暖化のなかで、二酸化炭素を大量に排出する化石燃料に依存しない経済や社会への転換が議論されている。石炭、石油、天然ガスの“悪役”としての存在感は、日を追うごとに増すばかりだ。

持続可能な経済成長を目指す「ドーナツ経済」において、化石燃料の利用を段階的に減らし、再生可能エネルギーに移行することは急務とされている。一方で、日本が全体の8割を占める化石エネルギーから再生可能エネルギーに移行して、自給自足のエネルギー体制を構築できるのだろうか。

今回は、世界の永遠のテーマである「脱化石燃料」の実現可能性を探る。次世代のエネルギー技術とともに、私たちの未来を予測していこう。

化石燃料と切っても切れない現代社会

化石燃料の歴史は、人類600万年の歴史と比べれば長くはない。化石燃料は17世紀半ばに始まった産業革命によって瞬く間に世界中へと広がり、各国の技術革新を支えるだけでなく、国家繁栄の原動力にもなっていった。

化石燃料によって創出された現代社会では、化石燃料なしで都市生活を維持することは困難だ。ガスや自動車を排除しても、プラスチックや電気など、私たちの暮らしには化石燃料が欠かせない。

化石燃料の主な使用先は、「発電」である。経済産業省によると、2022年度の発電電力量は、火力発電が79.8%、水力エネルギーが10.0%、風力・太陽光・地熱・バイオマスなど新エネルギーが7.3%、原子力が6.4%を占めた(バイオマス発電及び廃棄物発電は、火力・新エネルギーそれぞれに計上)。火力発電の燃料種別は、石炭が33.7%、液化天然ガスが36.2%、石油が2.6%だった(※1)。

日本のエネルギーの自給率は他国に比べて低く、経済産業省資源エネルギー庁の調べ(※2)によると、2021年度の自給率は13.3%で、OECD(経済協力開発機構)諸国の中で38か国中37位だったという。

日本は化石燃料を自国で産出できないためできないため、中東やオーストラリアなどからの輸入に頼らざるを得ないのが現状だ。過去のオイルショックを景気にエネルギー源が多様になったとはいえ、化石燃料の中でバリエーションが増えたに過ぎず、それ以外が占める割合は2割程度に留まっている。

政府は現在約8割ある火力発電を2030年までに41%に削減し、再生可能エネルギーを36~38%、原子力を20~22%まで上げる計画を進めている(※3)。

輸入から輸出へ デンマークのエネルギー戦略

世界では化石燃料離れが進んでいるが、どの再生可能エネルギーに切り替えるのがベストなのだろうか。日本のように化石燃料の発掘ができない国のお手本となるのが、グリーンエネルギーのリーダーとも謳われる「デンマーク」だ。

デンマークは2011年、「2050年までに化石燃料から完全に脱却する」と世界に先駆けて示した。現在、電力供給の50%は風力と太陽光で補われ、2030年までに1990年と比較し70%の温室効果ガス削減を目指す。計画は順調に進んでおり、2025年には55.5%を達成する見込みだという(※4、5)。

“山がない”平坦な土地が広がるデンマークは、強い風が日常的に吹く地理的利点をうまく活用し、風力産業のパイオニアとして知られる。著者がデンマーク留学中も、海岸や農地などでは、必ず風車を見つけられた。

それでいて、デンマークのエネルギーの種類は実に多種多様だ。早々に原子力を選択肢から外し、わらや生ごみなどを原料とするバイオマス、地熱、ウッドチップを使った火力発電など、化石燃料に頼らない発電方法を模索し続けてきた。

現在は、これまでに培った風力発電の技術を生かし、2030年完工を目標に世界初の「エネルギー島(Energy island)」を北海とバルト海に建設している。5GWの洋上風力で500万世帯分の電力を供給できる見込みで、欧米諸国への再生エネルギー輸出に加え、飛行機や船舶などへの「グリーン水素燃料」の生産にも力を入れていく(※6)。

順風満帆に思えるデンマークだが、かつては日本と同様に化石燃料の輸入に依存している国の一つだった。1973年の石油危機を契機に、再生可能エネルギー切り替えへの機運が高まり、風力発電が台頭。1980年代には数%だったエネルギー自給率は、輸出をするまでに上昇した。世界を牽引する風力発電の企業が誕生するだけでなく、国内に雇用を拡大し、2019年には初めて国内需要を超える電力を賄えるようになった(※7)。

九州ほどの国土しかないデンマークが、国の経済成長のために風力発電を新たな産業として野心的に推し進めてきた成果といえるだろう。

次世代の日本の再生可能エネルギーと最新技術

日本でも風力発電のポテンシャルは高いものの、地震や台風が頻繁に発生する懸念から、普及はしていない。日本の再生可能エネルギーは、これからどのように変容していくのだろうか。その可能性を最新の技術から探ってみよう。

化石燃料に代わるアンモニアや水素

燃焼時に二酸化炭素を排出しないアンモニアや水素は、化石燃料の代替エネルギーとして注目を集める。2030年までに、日本政府はアンモニア・水素を由来とする発電を1%実現することを目指し、約600億円の国家予算を計上している。

実現には、水素やアンモニア原料製造量の拡大や低コスト化、輸送技術の確立など課題も多い。ただし、これらの技術が早期に叶えば、火力発電への依存が高い国に対して、技術の提供が行えるだけでなく、日本がパイオニアとして新たな産業を創出できる可能性がある。

ペロブスカイト太陽電池

ペロブスカイト太陽電池は、日本発の技術であり、横浜桐蔭大学の特任教授である化学者の宮坂力氏によって考案された。この技術はノーベル化学賞の候補にも挙げられている。

従来の太陽光発電に比べて、ペロブスカイト太陽電池は高い効率と低コストを実現している。特筆すべきは、薄くて柔軟性があり、太陽電池自体を折り曲げることができる点。これにより、従来の架台が必要なくなり、屋根や壁など建造物の表面に直接貼り付けることが可能になった。

一方で、ペロブスカイト太陽電池は劣化しやすいという欠点がある。しかし、岡山大学の研究により、性能と耐環境性を向上させる添加剤「ベンゾフェノン(BP)」が発見された(※8)。これにより、室温・湿度30%の環境下でも高い安定性を維持し、太陽光発電の発展に大きく貢献することが期待されている。

AIによるエネルギー需要と供給の解析

無駄に消費される化石燃料を少しでも減らすために、エネルギーを効率的に管理する技術も台頭している。

再生可能エネルギーは気候の影響を受けやすく、安定した供給に課題がある。AIやビッグデータを活用することで、エネルギーの需要と供給、天候の予測、効率的な再生可能エネルギー利用が期待されている。

脱化石燃料に本気かが試されている

日本政府の計画では、2050年までにカーボンニュートラル、つまり温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを掲げている。

さらに、2024年4月に開催されたG7の気候・エネルギー・環境大臣会合で、2030年から2035年までに石炭火力発電を廃止することで原則合意したことを考えれば、再生可能エネルギーを社会実装させるスピードを今以上に加速しなければならない。

経済成長を維持しつつも、脱化石燃料を実現させるのは一筋縄ではいかない。世界にならって「削減」を掲げるだけではなく、これを好機と捉え、再生エネルギー分野で日本の強みを創出し、環境保護との両立を推し進める可能性は大いにある。世界に誇れる日本の技術が、どのように発展していくか引き続き注視していこう。

参考文献

(※1) 結果概要 【2022年度分】|経済産業省資源エネルギー庁:https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/pdf/2022/0-2022.pdf
(※2)2023―日本が抱えているエネルギー問題(前編)|経済産業省資源エネルギー庁:https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2023_1.html
(※3)エネルギー基本計画の概要(令和3年10月)|経済産業省:https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_02.pdf
(※4)Energy transition|State of Green:https://stateofgreen.com/en/focus-areas/energy-transition/
(※5)Denmark’s trajectory aligns with national climate targets:https://stateofgreen.com/en/news/denmarks-trajectory-aligns-with-national-climate-targets/
(※6)世界初のエネルギー島のイメージ像が公開|State of Green:https://stateofgreen.com/jp/news/march_2021_1/
(※7)世界市場を牽引する 風力エネルギー|State of Green:https://japan.um.dk/ja/-/media/country-sites/japan-ja/other/news/sog-wind-japan_digi.ashx
(※8)次世代太陽電池・ペロブスカイト太陽電池の欠点を補完する画期的な添加材“ベンゾフェノン”を発見!~性能と耐環境性の向上により、再生可能エネルギーの発展に貢献~|岡山大学:https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1177.html

WRITING BY

Ayaka Toba

編集者・ライター

新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。北欧の持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、タイでPermaculture Design Certificateを取得。サステナブルな生き方や気候変動に関するトピックスに強い関心がある。

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