sidebar-banner-umwelt

BUSINESS

マシンラーニングの導入はフードロス問題解決のカギとなるか?

マシンラーニングの導入はフードロス問題解決のカギとなるか?

国連が行った調査によると、全世界で生産されている農水産物の13%が、出荷から小売までの一連のサプライチェーンにおいてまったく消費されずに廃棄されているという。また、17%が家庭内で消費されずにゴミとして処分されているという。

いわゆる「フードロス」が世界的な問題となっているが、このフードロスの問題を、マシンラーニングなどを使って解決しようという動きが各地で始まっている。マシンラーニングなどのAIの導入はフードロス問題解決のカギとなるか、考察しよう。

世界的な問題となった「フードロス」

世界食糧計画(World Food Planning, WFP)が行った別の調査によると、人類が廃棄している食料は生産高の三分の一に達し、数量にして13億トン、金額にして1兆ドル(約150兆円)が毎年失われているという。フードロスは、発展途上国では収穫後の貯蔵および加工の工程で多く生じており、先進国では収穫後の工程、特に小売と家庭での消費フェーズで生じている。端的に言うと、発展途上国では食料の生産プロセスの工程で、先進国では食料サプライチェーンの最終工程において、それぞれフードロスが恒常的に多く発生している。

地球全体をひとつの巨大食料サプライチェーンと見なした場合、食料生産と消費と言う、それぞれのフェーズにおいて膨大なフードロスが生じている。今や世界的な問題となった「フードロス」は、食料グローバルチェーンにおける構造的問題となりつつあるようだ。

先進国の中でもとりわけアメリカは、フードロスの「問題児」であるとすべき存在だ。アメリカでは毎年8000万トンの食料が廃棄され、金額にして1490億ドル(約22兆3500万円)相当が無駄にされている。アメリカでは、生産された食料の38%がフードロスとして廃棄されているという調査結果もある。

そうしたフードロスの「問題児」たるアメリカや、アメリカと同様にフードロスの問題を抱えたヨーロッパ諸国で、マシンラーニングなどのAIテクノロジーを活用してフードロス問題に対処しようとする機運が高まりつつある。ウェイストレス社とウィンナウ社のふたつのケースを紹介しよう。

スーパーマーケットのフードロスを削減:ウェイストレスのケース

ウェイストレス(Wasteless)は2016年設立の、イスラエル発のスタートアップ企業だ。欧米先進国のスーパーマーケットなどの小売の現場で売れ残った膨大な食料が日々廃棄されていることに胸を痛めた創業者らが立ち上げ、現在はニューヨークとアムステルダムに拠点を置き、事業を展開している。

ウェイストレスの事業はシンプルだ。スーパーマーケットにマシンラーニングを使ったダイナミックプライシングプラットフォームを提供し、売れ残り≒フードロスの発生を抑えるというものだ。

ダイナミックプライシング(Dynamic pricing)とは、固定価格(Fixed pricing)の対義語で、売り手と買い手の需給バランスや在庫、あるいは当該製品の需要予測等に基づいて価格をフレキシブルに変動させるプライシング(値付け)のことだ。日本のスーパーマーケットやコンビニエンスストアでも、閉店間際や消費期限が近付いた商品を弾力的に値下げして売れ残りを防止しようとするが、そうした人間が行っている一連の行為をAIにやらせていると考えればイメージしやすいだろう。

スーパーマーケットにおけるダイナミックプライシングを実現するに際し、ウェイストレスのプラットフォームは、AIに次のような課題について学習をさせている:

・消費期限が近づいている商品について、消費者はいくらであれば価格が妥当だと判断するか?
・商品棚の在庫が少ないと消費者が認識した場合、消費者はどのような行動をとるか?
・欠品しそうな商品の次の入庫日はいつか?その数量はどのくらいか?
・商品同士の関係性はどうなっているのか?例えばある商品が欠品した場合、どの商品が代替購買されるのか?

ウェイストレスのマシンラーニングプラットフォームは、単に消費期限が近付いた商品を半額にしろと言うのではなく、顧客が違和感なく購入してくれ、かつ小売店側に最大の利益をもたらす「最適価格」を提案するところが強みなのだ。消費者の実際の購買データなども参照し、最適値を提示してくれるウェイストレスのマシンラーニングプラットフォームは、現在着実に導入が広がりつつある。

飲食店のオペレーションを監視、フードロスを削減:ウィンナウのケース

ウィンナウ(WinNow)は2013年設立の、イギリス・ロンドンに拠点を置き、アメリカやヨーロッパ諸国で事業を展開しているスタートアップ企業だ。ウィンナウのミッションもシンプルで、「飲食業界のフードロス問題を解決する」ことだ。スーパーマーケットなどの小売店とならび、飲食店もフードロス発生の温床とされている。飲食店ではお客の食べ残しなどに加えて不良在庫などにより膨大なフードロスが恒常的に発生している。ウィンナウは、AIを使ったフードロスモニタリングシステムを提供することで飲食店のフードロス問題を解決しようとしている。

ウィンナウの主力製品「ウィンビジョン」(WinVision)は、スマートカメラを搭載したフードロスモニタリングシステムだ。食べ残しや無駄になった食材が廃棄されるゴミ箱の上部に設置され、具体的に「何がどのくらい廃棄されているのか」をリアルタイムでモニタリングする。モニタリングされた情報はウィンビジョンのディスプレーに表示され、スタッフ全員で共有される。トラックされたデータ全体はウィークリーやマンスリーベースのレポートで出力され、具体的に何がどれだけ無駄になったのかが明らかにされる。

これまでほとんど注目されてこなかったフードロスに焦点を当て、その内実をつまびらかにすることによってウィンナウは飲食店のフードロス削減に大きく貢献している。ウィンビジョンを採用したある大手レストランチェーンは、フードロスを72%削減することに成功し、実に年間25万食分の食料をセーブ出来たそうだ。また、フードロスが削減できたことによりキッチンでのオペレーションがより効率的になり、スタッフのモチベーションも大きく向上しているという。

ウィンナウのフードロスモニタリングシステムは、一般の飲食店に加えて、ホテルチェーン、クルーズ船、カジノといった他のホスピタリティビジネスでも導入が始まっている。ビジネスの規模が大きい分、同社のシステム導入メリットは大きいと言えるだろう。ウィンナウは、近い将来に年間10億ドル(約1500億円)相当のフードロス削減を目指すとしている。

日本でもAIはフードロス問題解決のカギとなるか?

フードロス問題解決へ向けてマシンラーニングなどのAIの導入が進む欧米だが、一方日本の状況はどうだろう。日本においても、食品のサプライチェーンにおけるフードロスの防止にAIを活用しようとする機運が高まっている。特にAIによる需要予測システムを活用し、仕入れや在庫を適正化しようとする機運が高まってきているように見られる。

しかし、現在欧米で進行しているような、スーパーマーケットなどの小売店や、飲食店などの現場に存在する「今そこにある課題」に直接取り組むような本格的なプロジェクトは、未だレアケースであるように思われる。

農林水産省が発表した資料によると、2020年における日本の食品ロスは522万トンに及び、長期的には減少トレンドにあるものの、依然高い水準にある。重量に換算すると52.億キログラムで、10キログラム入り米袋5億7千万袋に相当する量だ。カロリーベースでの食料自給率が38%しかない島国にとっては、経済的に大きな無駄となっているとせざるを得ないだろう。

いずれにせよ、日本もアメリカと同様にフードロスの「問題児」であることは認めざるを得ず、今後より真摯で誠実な対応が求められることは間違いないだろう。日本には「もったいない精神」が文化に組み込まれているが、日本の「もったいない精神」がマシンラーニングなどのAI技術と組み合わさり、日本独自のソリューションとして世界へ提供できるようになることを願ってやまない。

参考文献

https://www.un.org/en/observances/end-food-waste-day
https://www.weforum.org/agenda/2021/06/wasteless-ai-retail-food-waste/
https://www.foxnews.com/lifestyle/how-ai-machine-learning-revealing-food-waste-commercial-kitchens-restaurants-real-time
https://www.wfp.org/stories/5-facts-about-food-waste-and-hunger
https://www.wasteless.com/
https://www.winnowsolutions.com/
https://www.mottainai-shokuhin-center.org/now/
https://www.wasteless.com/

WRITING BY

前田 健二

経営コンサルタント・ライター

事業再生・アメリカ市場進出のコンサルティングを提供する一方、経済・ビジネス関連のライターとして活動している。特にアメリカのビジネス事情に詳しい。