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AIは音楽業界をどのように変えるのか?

Music background design. Musical writing notes

AIの台頭により、音楽業界が劇的な転換を強いられている。これまでプロの作曲家や演奏家が活躍していた各種の音楽の現場に生成AIが登場、シェアを拡大しながらプレゼンスを拡大しつつある。AIの音楽業界での台頭は「作曲コスト」や「演奏コスト」を下げるだけでなく、楽曲のサプライチェーンにも大きな影響を与えつつある。AI時代における人間の音楽家の役割はどうなるのか、生成AIが作曲した著作権の取り扱いの問題などを含めて現状をお伝えする。

Deezerには1日あたり9万曲の「AI生成音楽」がアップロード

大手音楽ストリーミングサービスDeezerが公開した最新のデータによると、2026年6月時点で、Deezerには毎日9万曲の「AI生成音楽」がアップロードされているという。実にDeezerにアップロードされる音楽の半分以上が「AI生成音楽」で占められる新たな時代の到来を実感させる数字だが、そうした「AI生成音楽」の多くが音楽生成AIプラットフォームのSunoやUdioなどを使って作られているという。

SunoもUdioもいずれもテキストベースのプロンプトから自動的に音楽を生成するAIプラットフォームだ。「1960年代のアメリカのオールドジャズ風のジャム系ミュージック」「日本のシティポップ風の軽いテンポのライトロック」といったプロンプトで指示すると、ただちにAIが楽曲を生成してくれる。無料プランも用意されていて、限定数までは誰でも利用することができる。さらに生成された音楽はDeezerなどの音楽ストリーミングサービスなどに加えて、YouTubeなどにもアップロード可能だ。

なおSunoによると、2023年のサービス開始からわずか2年半後の2026年2月までに、全世界の累計利用者数1億人を突破したという。

「AI生成音楽」のほとんどは「詐欺的」?

「AI生成音楽」が怒涛の勢いでプレゼンスを拡げつつあるが、Deezerによるとそうした「AI生成音楽」のほとんどが「詐欺的」であり、広い意味での「スパム」であるという。アップロードされる音楽の50%以上を「AI生成音楽」が占める一方、ユーザーに実際に視聴されているのは全体の1-3%に過ぎないとしている。

Deezerは2025年からアップロードされた音楽が「AI生成音楽」であるかを識別するアルゴリズムの運用を開始しており、「AI生成音楽」の85%が「詐欺的」(Fraudulent)であると判断している。「詐欺的」とは単にダウンロード収入だけを目的にAIに生成させた音楽という意味であるが、生成AIを使って大量に音楽を生成し、Deezerにアップロードしてダウンロード収入だけを狙うというシロモノだ。

生成AIによって生成される大量の音楽は、文字通り粗製乱造を地で行くものであり、収益だけを目的としたチープなものになっている。商業音楽の現場では、「AI生成音楽」は今のところ人間のアーティストが創った楽曲を超越する存在にはなっていないようだ。

音楽業界でもっとも影響を受ける領域は?

A good looking Hispanic woman is composing music in her private home studio. She is using a computer & music keyboard to compose and is surrounded by musicians’ equipment.

一方、「AI生成音楽」が着実に人間を脅かし始めている領域も存在する。「コマーシャルミュージック」と呼ばれる領域だ。「コマーシャルミュージック」とは、消費者が直接購入や視聴をして楽しむ音楽ではなく、テレビコマーシャル、店舗などで使われるBGM、企業の社歌やキャンペーンソング、社内教育プログラムビデオなどで使われる演出用音楽、サウンドロゴなどのことだ。YouTube動画で使われる版権フリーの音楽なども含む、演出目的で副次的に使われる音楽だ。

これまで「コマーシャルミュージック」は人間の作曲家によって作曲され、それぞれの用途に使われてきた。作曲家は作曲した楽曲ごとに「作曲料」を受け取り、生活の糧としてきた。しかし、最近は企業が各種の「コマーシャルミュージック」を生成AIに作曲させ、人間の作曲家をリプレースする機運が高まっている。

AIによる人間の各プロフェッションのリプレースメントリスクを評価しているジョブゾーン・リスク(JobZone Risk)は、今後人間の作曲家がAIにリプレースされるリスクを100点満点中37.4と悲観的に評価している(100点がもっとも安全)。特にキャリア開始から0-2年程度のエントリーレベルの作曲家は「黄色から赤色」のリスクにさらされているとし、特に付加価値の低い「ライブラリーミュージック」作曲の仕事がAIに奪われる可能性が極めて高いとしている。

「AI生成音楽」の著作権は誰のものか

Man working in professional music studio

ところで、「AI生成音楽」の著作権はどうなっているだろうか。アメリカでは現在、完全にAIが作曲した「AI生成音楽」には著作権が発生しないという方向性が明確になっている。

例えば、Sunoに「1990年代のイギリスのハードロック風の日本のアイドルポップミュージックを作って」というプロントで指示を与え、メロディ、歌詞、コード、アレンジなどをすべて生成させたとする。その場合、AIが生成した「楽曲」についてプロンプトで指示した人間やAIが著作権者になることはない。

しかし、例えば人間が作詞した歌詞にメロディとコードをAIに付けさせる、あるいは人間が作ったメロディーをベースにAIにオーケストレーションをさせるといったケースでは、人間が関与した部分について著作権が認められる可能性が高い。米国著作権局も、AIを「創作を支援する道具」として使用すること自体は著作権保護を妨げないとしており、さらに人間がAI生成素材を創造的に選択・配置・編集した場合、その人間の創作部分は保護され得るとの認識を示している。

とどのつまり、プロンプトだけ人間が書いてすべてをAIに丸投げして「AI生成音楽」を作らせるといったケースはダメだが、楽曲の創造の過程において一定程度人間が主体的に関与しているケースにおいては著作権が認められる可能性が残るということだろう。

また、AIが既存の楽曲をベースに学習し、新たに作曲をした場合の適法性などの問題も最近浮上してきており、AI台頭による音楽の著作権の取り扱いの問題は、今後さらに議論を呼ぶことは間違いないだろう。関係者ならずとも、今後のさらなる注視が求められる。

人間の音楽家は今後どうなるのか?

Young musicians reading sheet music during a break in rehearsal

AIの台頭により激変を迫られている音楽業界だが、今後人間の音楽家、とりわけ作曲家は、どうなってしまうのであろうか。まず考えられるのは、AIを使いこなす作曲家とそうでない作曲家とに二極化することだ。メロディなどの主旋律や歌詞などの主要部分を創造し、それを大きく花開かせるためにAIにオーケストレーションやコードづけなどを依頼し、あたかもバンド仲間のように使いこなす作曲家と、はなからAIを否定して頑なに利用を拒む作曲家とに分かれるといったイメージだ。前者が有能な「アシスタント」とともに可能性を大きく広げる一方で、後者は時代に取り残された「古き良き時代の生き残り」となってゆく可能性が高いと筆者は予想する。

しかし、いくらAI台頭の時代を迎えたと言うものの、それがゼロから音楽を創造する人間を完全にリプレースすることにはならない。筆者は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの「マタイ受難曲」こそ神が人類に与えた珠玉の傑作であり、今後いくらAIが進化してもそれに超越または匹敵する名曲を創造することはできないと考えている。

全人類の至宝と呼ぶべきバッハの傑作は、単に他の楽曲を学習することや、過去の名曲を構成するパターンなどを参照したところで生まれるものではない。それは作曲者の人生観、宗教心、人生に対する喜び、嘆き、苦しみ、死の恐怖といった様々なファクターが内在する、人間が神の存在へ近づくフェーズにおいてのみ誕生する奇跡の産物なのだ。

ということで筆者は、今後当面はAIが人間の作曲家を超える楽曲を作曲できるようにはならないと考えている。AIは人間の作曲家のための「優秀なアシスタント」にはなれても、作曲家そのものにはなれない。音楽は人間の存在意義に関わる最も根本的な琴線に触れる、真に人間的な創造物のひとつだからだ。その意味において「優秀なアシスタント」としてのAIの今後のさらなる進化と発展に大いに期待している。

参考文献

https://newsroom-deezer.com/2026/07/ai-music-exceeds-50-percent-daily-uploads-deezer/
https://suno.com/
https://www.bakersfieldcollege.edu/academics/pathways/ach/music/commercial-music.html
https://jobzonerisk.com/roles/music-director-composer
https://www.copyright.gov/newsnet/2025/1060.html

WRITING BY

前田 健二

経営コンサルタント・ライター

事業再生・アメリカ市場進出のコンサルティングを提供する一方、経済・ビジネス関連のライターとして活動している。特にアメリカのビジネス事情に詳しい。

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