sidebar-banner-umwelt

CULTURE

Z世代を中心に世界で増大する「エコ不安」を払拭する方法

 

環境問題のニュースを見聞きしたあと、罪悪感に苛まれたり、悲しい気持ちに飲み込まれたりしたという経験はないだろうか。環境問題への懸念によって生まれる「エコ不安」を覚える人が世界中で増加傾向にあるという。

環境問題に取り組まなければいけない一方で、2023年の流行語にも選ばれた「地球沸騰化」をはじめとする不安や恐怖をあおる言葉や情報は私たちの心に影を落とす。

いま、私たちはエコ不安とどう向き合い、払拭するには何が必要なのだろうか。一緒に考えていこう。

世界のZ世代を襲うエコ不安

「今は気候変動について考えたくないの」

環境先進国のデンマークに留学中、学校では気候変動に関する授業やディスカッションが頻繁に行われていた。生徒の多くは18歳から25歳の年齢層が占め、他の世代に比べて、環境意識が高いといわれる1995年から2015年に生まれたZ世代が8割ほどだ。

サステナビリティの授業のあと、いつもより元気がないデンマーク人のアメリアに声をかけた。彼女は、気候変動のディスカッションに参加して疲れたと申し訳なさそうに言った。

「今、私は自分のことに精一杯で、環境問題や気候変動について考える余裕がない。悲しくなってしまうから」

エコ不安は、地球温暖化による深刻な状況に対して、不安感や喪失感、無力感、怒り、絶望感、罪悪感などが慢性的に続く状態をいう。放っておけば、うつ病などの疾患に繋がる可能性も指摘されている。

イギリスのバース大学が2021年に実施した、世界10か国(オーストラリア、フィンランド、フランス、ポルトガル、英国、米国、ブラジル、インド、ナイジェリア、フィリピン)の16~25歳の若年層を対象とした調査(※1)によると、59%が気候変動について「極度に心配している」または「とても心配している」と回答した。

Z世代は「あと“30年”で達成しなければ地球が危機的状況になる」といった、具体的な数字や言葉とともに育ってきた。先人たちの代償を、私たちが支払うことになるーー。異常気象や自然災害を目の当たりにしながら、彼らは被害者意識や漠然とした不安と対峙しているわけだ。

エコ不安はあなたにも起こりうる

日本ではどうだろうか。

電通総研が、上記調査と同じ質問を日本在住の16-65歳を対象に行った2023年発表の「気候不安に関する意識調査(日本国内版)」(※2)で、「私は気候変動が人びとや地球を脅かすことを心配しているか」という質問に対し、「極度に心配している」もしくは「とても心配している」と回答したのは、全世代の22.8%だった。世界のZ世代の数値59%と比較して、半分にも満たない。

「ほどほどに」「少し」まで含めると、「心配している」人は全体で87.3%にのぼるが、世界と比較すると、「自分ごと」として実感している人はまだ少数派なのかもしれない。Z世代単体で比較してみても、「極度に心配している」もしくは「とても心配している」と回答したのは、16.4%と世界のZ世代と比べて低い。

一方で、日本のZ世代とそれ以外を比較すると、日本のZ世代は気候変動によりもたらされる悲観的な感情として、「落ち込み」や「絶望」を他の世代よりも強く抱いていることが明らかになった。さらには、気候変動に対して何らかのアクションを取っている割合は他の年代に比べて高い。

ただし、エコ不安は決して若い世代に限ったことではない。

電通総研の調査(※2)でも、日本では年代が上がれば上がるほど気候変動を「極度に心配している」もしくは「とても心配している」と回答した人が多い結果となっている。さらに学術誌「サステナビリティ」(※3)に2023年2月に掲載された研究結果では、女性は男性よりも気候不安を感じやすいと報告されている。

ネガティブなニュースは気候変動への関心を奪う

気候変動に対して、不安や諦め、時には悲観に近い感情はどういった時に生まれやすいのだろうか。

ロイタージャーナリズム研究所が世界8か国(フランス、ドイツ、日本、イギリス、アメリカ、ブラジル、インド、パキスタン)を対象とした調査(※4)によると、34%が回答日直前の1週間で各国の気候変動に関するニュースや情報にアクセスしたとし、SNS (19%) は、ラジオ (10%) や紙の新聞 (11%) よりも広く使用されているという。

一方で、人々が気候変動に関するニュースを常に、または頻繁に積極的に避けていると答えたのは22%だった。スウェーデンの大手エネルギー会社Vattenfallが発表した調査(※5)で、気候変動に対する現実的なニュースは明るい話題と比べて印象に残りやすい傾向があり、それに触れた人に不安や無力感など負の感情を与えてしまうことが明らかになっている。

通常ニュースとして報道される内容は、調査や研究結果に基づいており、決して前向きとはいえない場合が多い。つまり、SNSなど日常で触れるニュースの内容が常にネガティブなものであれば、人々はエコ不安を抱きやすくなり、さらには気候変動への関心を失いかねない。

エコ不安はごく自然な心の反応

人々がエコ不安に襲われ、気候変動を理由に諦め悲観的になるのは、最悪の結果といえる。実際にバース大学の調査(※1)では、Z世代の39.1%が「子どもを持つことを躊躇う」と回答している。

気候変動はもはや「一刻の余地もない」と形容されるいま、ニュースのような事実ベースの報道は、意図していなくてもどうしても不安を煽ったり、無気力感を抱かせたりしてしまう。気候変動を何とかしたいと思えば思うほど、自分を無力に感じ、悲しみに支配されてしまう。

ただし、確実に言えるのは、ネガティブな感情を抱くことは決して悪いわけではない。気候変動という課題は短い期間でどうにかなるものではなく、長い目で腰を据えて取り組まなければいけない。だからこそ、その不安はごく自然な心の反応であるのだ。

ポジティブな情報を生活に意識して取り入れる

もしあなたがZ世代や女性であれば、エコ不安にかかりやすい可能性が他より高いことを覚えておいてほしい。また、年代や性別に限らず、気候変動に関する不安を感じやすくなっている時は、一度これらの問題から距離を置いて、意識的にポジティブな情報に触れることに注力してほしい。

例えば、インスタグラムでサステナブルな生き方を発信しているアカウントをフォローしてみたり、エコフレンドリーな商品を生活に取り入れたりするのもいい。同じ志を持つ人と行動を始めることもエコ不安の付き合い方の一つだ。

“地球のため”は、自分を幸せにすることの次でいい。半径5メートルから気候変動にできるアクションを細くとも絶えず続ける。目には見えなくても、自分の行動が確実に解決へと導いていると信じて、肩の力を抜いて向き合ってほしい。

参考文献

※1 https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(21)00278-3/fulltext
※2 https://institute.dentsu.com/articles/2964/
※3 https://www.mdpi.com/2071-1050/15/4/3540
※4 https://reutersinstitute.politics.ox.ac.uk/climate-change-news-audiences-analysis-news-use-and-attitudes-eight-countries
※5 https://group.vattenfall.com/siteassets/corporate/what_we_do/report/climate_change_report_.pdf

WRITING BY

Ayaka Toba

編集者・ライター

新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。北欧の持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、タイでPermaculture Design Certificateを取得。サステナブルな生き方や気候変動に関するトピックスに強い関心がある。