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鉄道業界の救世主になるか?線路保守におけるAI・ロボットの現状
目次
近年、終電の繰り上げはもとより、首都圏では昼間時間帯の運休が見られるようになっている。この背景となっているのが線路の保守作業だ。労働人口の減少により、どの鉄道会社においても保守作業は厳しさを増し、頭を悩ませている。
そんな中、問題解決の一助となっているのがAIの導入だ。保守現場におけるAIの活用法と今後の活かし方を見ていきたい。
鉄道保守と人員不足

まずは鉄道の保守作業にまつわる現状を確認しよう。JR東日本は2025年12月、鉄道保守の働き方に関するプレスリリースを発表した。それによると、設備の経年劣化に加え、ホームドアをはじめとするバリアフリー設備の設置工事により、2035年のメンテナンス量は2024年よりも約20%増加する見込みだ。
一方、保守作業に従事する従業員は労働人口の減少により、2024年よりも逆に約20%も減少するという。将来的にこのまま放置すると、メンテナンス量と従業員のバランスが崩れ、保守作業が立ち行かなくなる。
そこで、JR東日本は従業員の継続的な確保だけでなく、メンテナンスの省力化・省人化、環境改善に力を入れている。その一環として行われているのが、一部区間を運休した上で行う昼間時間帯の保守作業だ。これは従業員の負担軽減を目的としている。軌道・電気関係従業員へのアンケートによると、「作業を昼間にシフトしたい」が67%を占めた。プライベートな時間確保や健康的な生活リズムを求める声も多い。とはいえ、昼間時間帯に運休をすると、利用者に不便を強いることは避けられない。地方ローカル線であれば、運休日を嫌って、ますますマイカーに流出するかもしれない。
他社を見ると、一連の問題に加え、従事者の年齢構成も問題となっている。東武鉄道は鉄道に関わる従業員の年齢構成はベテラン層の割合が高い一方、中間層の割合は低い。そのため、技術継承が難しくなっている。協力会社の人手不足も深刻だという。
このように、JR東日本や大手私鉄であっても、鉄道の保守に頭を悩ませている。地方はさらに深刻なことは言うまでもない。保守作業の省力化・省人化は待ったなしの状態なのだ。
AIを使った取り組み

一連の問題を解決するために、各鉄道会社は保守作業の省力化・省人化に乗り出している。その一つがAIの活用だ。JR西日本は生成AIによる画像解析システム「mitococa SUU(ミトコカ スー)」の開発を進めている。
これは追加学習なしで、画像内の対象物を検出でき、危険などを察知して従業員に知らせる仕組みだ。たとえば、「沿線に工事現場の足場やクレーンが設置されているか確認したい」と命令する。生成AIはカメラ画像を解析し、検知物を発見すると、アプリを通じて「検知あり」と教えてくれる。
もしかすると、「わざわざ新システムを開発しなくても、従来からあるAIカメラシステムで十分なのでは」と思うかもしれない。JR西日本によると、膨大な映像をそのまま解析すると、処理負荷や誤検出リスクの観点から、現場では使えないという。一方、必要な画像だけを解析させようとすると、結局は人の手が必要となる。「mitococa SUU」は必要な画像を自動抽出、解析し、ユーザーにわかりやすく伝えられるのだ。また、保守現場では保護具の着用状態の確認や不安全行動の定常監視にも使える。「mitococa SUU」の製品版リリースは2027年とのことだ。
東急電鉄は住友商事と共に、AIで保守作業をサポートするプロジェクトに取り組む。たとえば、線路の状態確認だ。現状では、週1~毎日にかけて、従業員が線路の上を歩いたり、車両の運転台からの目視により、線路の状態を確認する。確認方法は耳で異常を感じるといった、五感が必要な作業となる。まさしく、技術継承が必要な分野なのだ。
AIを使ったサポートシステムは、運転席横に設置したカメラでのレールの撮影からはじまる。撮影した映像は5G通信で転送され、AI解析する流れだ。AIは受信した画像を解析し、異常箇所を検知する。また、資金面で制約がある鉄道会社でも導入しやすいシステムになっている。
このプロジェクトでは、都市、地方問わず多数の鉄道会社が連携して、AI学習に必要なデータを共有した。また、住友商事は横展開として、空港での活用も考えているという。
従来、保守に限らず、鉄道システムは自社で完結することが多かった。一方、AIの活用では、一社だけに限らず他社を巻き込むことにより、システムの共有化が進んでいる。資金力に限界がある地方においても、これからは先進技術が導入しやすい状況になるのではないか。
ロボットとAIの融合が見てみたい

ここまで、鉄道保守作業におけるAIの活用事例を見たが、多くは画像、映像解析だ。さすがに、手を動かすような具体的な作業は私が知る限り、AIにはできない。しかし、手を動かす作業が人間頼りでは、省力化・省人化の道は険しい。
そこで、鉄道会社はロボット開発にも力を入れている。JR西日本は2024年から、人型ロボット「多機能鉄道重機、ZIZAI」を鉄道設備メンテナンスに導入している。ロボットは荷台にある操縦室から操作する。従業員はVRゴーグルをかけ、コントローラを使いながら、直感的に操作できる。主に高所作業が必要なところで使われ、架線柱を塗装したり、樹木を切ったり、様々な場面で活躍する。私も実際に操作したが、操作は手の動きに近く、基本的な動作であれば誰でもすぐにできる。もちろん、具体的な作業に関してはトレーニングが必要だが、特別な免許は必要ない。
現在の技術でも十分といえば十分だが、ロボットとAIカメラを組み合わせると、もっと効率よく保守作業ができるのではないか。まずは、AIカメラによる操縦者のサポートから始まるだろう。そして近い将来、人間がプロンプトをAI人型ロボットに送り、AI人型ロボットが全自動で仕事をする、そんなシーンも見られるだろう。2月14日付けの産経新聞によると、2027年度の量産を目指し、産学連携で「人型AIロボ」の開発を進めているという。全自動の保守作業も夢ではなさそうだ。
また、近年は災害が多発している。大災害の度に、ローカル線を中心に長期間にわたる運休を余儀なくされる。場合によっては復旧をあきらめ、廃線を選択するケースも少なくない。大規模災害での復旧に対応できるようなAI、ロボットも望むところだ。たとえば、上空から撮影した被害状況をAIが解析し、適切な作業工程を組み、従業員をサポートするといった感じだ。また、作業車が入りにくい現場に、人型ロボットが入れば復旧時間も短くなる。
とはいえ、いくらAIでもロボットでも、作業の最終確認は人間が行うことに変わりはない。そして、作業後の微調整は人間がやらなくてはいけない仕事だ。いくら技術が進んだとしても、受け継がれてきた人間の技術が完全に不要にはならないだろう。
参考文献
2025年10月29日 JR東日本ニュース
安全安定輸送の更なる向上とメンテナンス業務変革の両立をめざします
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jreast.co.jp/press/2025/20251209_ho01.pdf東京都都市整備局
鉄道事業者における技術者不足に関する実情や取組事例の紹介
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/toshiseibi/-22住友商事
線路点検をAIで省力化。住商×鉄道33事業者が挑む、鉄道業界の人手不足
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/enrich/contents/0121マイナビニュース
JR西日本「人型ロボット」重機の製品機を公開、試作機との違い体感
https://news.mynavi.jp/article/20240809-3002460/産経新聞
産学連携オール日本で27年の「人型AIロボ」量産に挑戦 巻き返しへ「最後のチャンス」
https://www.sankei.com/article/20260214-YRQAGFKTNFJJBLLIPCUD3UEYZQ/
新田浩之
ライター
神戸市在住。2011年関西大学文学部卒業、2013年神戸大学大学院国際文化学研究科修了
。2016年からライター業に従事。2018年からチェコ政府観光局公認のチェコ親善アンバサ
ダーを務める。専門領域は国内の鉄道・交通、中欧・東欧・ロシアの鉄道と旅行。

