SCIENCE

地球環境の未来を予測する。IPCCの報告書で明かされた私たちのリミットとは?

 

いまこの時も私たちが直面している地球温暖化。「地球の未来は私たちの今日の決断にかかっている」と言われて久しいが、具体的に今はどんな状況にいて、どんなアクションが求められているのだろうか。

気候変動を評価し、各国政府の気候変動政策について科学的知見に基づきアドバイスや意見を提供することを目的に結成された組織がある。政府間パネル・IPCCだ。現在195カ国で構成される政府間組織で、世界各国の学者や研究者らが気候変動の状況と未来への影響、助言などを定期的に報告する。

今回は最新の報告書で予測された気候変動の行方をわかりやすく解説しながら、地球の未来を守るためのヒントを紐解いていこう。

IPCCの役割と世界に変化をもたらす影響力

2023年3月に最新の第6次評価報告書が発表された際、国連の事務総長であるアントニオ・グテーレス氏の「気候の時限爆弾の時計が刻々と進んでいる」(※1)という発言が、瞬く間に世界中を駆け巡り注目を集めたことは記憶に新しい。IPCCが担う役割と影響力は、どのようなものだろうか。

IPCCはIntergovernmental Panel on Climate Changeの略で、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により1988年に設立され、ジュネーブに事務局を置く。政府間パネルと聞くとイメージが湧きづらいが、「科学的根拠に基づいて、気候変動の評価を行う国際的な組織」と覚えておくといいだろう。

IPCCの報告書は世界各国の政策立案者や財界のリーダーに、地球の現在地を科学的知見に基づき理解してもらうことで、気候変動への対策を促す目的がある。また、国際交渉や各国の政策に必要な基礎情報を、政治的に中立の立場から科学的根拠とともに提供する。

世界中の科学者の英知を結集させるIPCC評価報告書

IPCCは、総会・ビューロー(議長団)・執行委員会のもとに、3つの作業部会(WG)とインベントリタスクフォース(TFI)で構成される。日本からは東京大学や京都大学などの教授陣、国立研究開発法人や政府機関の研究員など、気候変動の第一線で活躍する科学者らの名が連なる。

IPCCは自ら研究を行う組織ではなく、世界中の科学者が手がけた論文に基づいた報告書を作成する。つまり、報告書の執筆者を誰にするのかや、報告書のレビューなど、英語で言う「assessment」の役割を担っている。

それぞれのWGとTFIが担当するのは、次の通りだ。

・第1作業部会(自然科学的根拠):温室効果ガスの増加、気温上昇、極端な天候現象など
・第2作業部会(影響・適応・脆弱性):海面上昇、生態系への影響、農業・水資源への影響など
・第3作業部会(緩和策):気候変動の緩和に関する策定の評価
・インベントリタスクフォース:温室効果ガスの排出量、吸収量の目録作成手法の策定、普及、改定

IPCCの報告書は「評価報告書(統合報告書)」と呼ばれる全体をまとめたもののほかに、「特別報告書」と呼ばれる一定のテーマに関するものがある。報告書は、内容の可能性や信頼性に配慮された表現で掲載される。例えば、ほぼ確実な場合は「virtually certain(可能性が高い)」とされ、文章からどの程度の信頼性かを読み取れる。

5〜6年ごとを目安に評価報告書が発表されており、次回は2029年後半の提出が予定(※2)されている。

私たちがこれから直面するさらなる気候危機

最新の報告書(※3)で、押さえておきたいポイントを3つ選んだ。私たちの未来がどう予測されているのかを確認していこう。

温暖化を2°Cより低く抑えることが更に困難になる可能性が高い

温暖化は進行し続けている。最新の報告書では、気温は2011〜2020年までに1.1℃上昇しており、現在の政策のままでは、21世紀中に「1.5°Cを超える可能性が高く、温暖化を2°Cより低く抑えることが更に困難になる可能性が高い」とされる。政策の強化が行われなければ、2100年に3.2℃上昇すると予測されている。

ちなみに「1.5℃目標」とは、2015年にパリ協定で定められた。産業革命以前に比べ、地球の平均気温上昇を「2℃未満、できるなら1.5℃にとどめる」というものだ。

第6次報告書では「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と、初めて温暖化が人間の活動によるものだと記載された。「現在の気候システムの多くの側面は、何世紀も何千年もの間、前例のなかったもの」ともされ、最近の温度上昇は過去に前例がないレベルに到達している。

地球温暖化の進行に合わせてハザードが高まる

大気、海洋、雪氷圏、及び生物圏に広範かつ急速な変化が起こり、自然と人間に悪影響を与え損害をもたらしている。世界の平均気温が上がり続けることで、起きる変化にも言及がある。極端な高温、海洋熱波、大雨、干ばつ、氷床や氷河の融解、海面水位の上昇など、さまざまな災害が発生するリスクが高まっている。

しかも「現在の気候変動への過去の寄与が最も少ない脆弱なコミュニティが不均衡に影響を受ける」とされる。つまりグローバルサウス(新興・途上国)は、地球温暖化の原因を招いたと言われるグローバルノース(先進国)よりも、気候変動による影響を受けるやすい。そのため、グローバルノースは、気候変動対策支援の増強を求められている。

さらに、人間活動によって排出されたCO2を吸収する海洋や陸域の吸収が、排出量の増加とともに大気中にCO2が残存することが予測される。それにより、さらなる気温上昇を招く可能性が高い。

自然なCO2の吸収が限界を迎えることになるとすれば、ネガティブエミッション技術(NETs)と呼ばれる、大気中のCO2を除去する技術の向上が鍵を握っていくことになる。

CO2排出量をトータルでマイナスにし持続できれば温暖化は徐々に低減

温暖化が1.5℃などの特定の水準を超えても、まだ希望を失ったわけではない。世界全体でCO2排出量をトータルでマイナスにし、さらに継続できれば、温暖化は徐々に低減することは可能とされる。

それには、化石燃料を大幅削減し、CO2の排出がない電力システムの利用、エネルギーシステム全体にわたるシステム統合の拡大などが急務だ。

自然と共存し、人間も住みやすい持続可能な地球を守るには、IPCCは「この10 年間に行う選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を持つ」としている。

私たちの選択が地球の将来の歴史を左右する

第6次評価報告書の内容をセンセーショナルだと感じた人がいるかもしれない。さらに、私たちにできることなどないと無力感に苛まれてしまった人もいるだろう。

気候変動は確実に私たちの生活に影響を及ぼし始めている。毎年の酷暑や野菜の高騰など、日々の生活で気候による日常の変化を感じたことがあるはずだ。IPCCが言うように、私たちの一つ一つの選択が、未来を左右するフェーズに到達している。

IPCCは世界に対して、抜本的な改革を提言している。化石燃料からの脱却に加え、再生可能エネルギーへの投資が求められる。政府や企業の決断を見守り、支持や反対を表明することは私たちの責任であり、地球温暖化を食い止める重要な手段でもあるのだ。

評価報告書は和訳されているので、興味を持った人はぜひ目を通してほしい。よくある質問と回答など、知識がない人でもわかりやすくまとめられた資料もある。まずは現状を把握して、私たちに何ができるのかを問い続けよう。

参考文献

より精緻な科学的知見を提供−IPCC第1作業部会第6次評価報告書概要−
https://cger.nies.go.jp/cgernews/202111/372001.html
気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ipcc.html
IPCC AR6 WG1報告書 よくある質問と回答(FAQs)暫定訳(2022年11月30日版)
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/IPCC_AR6_WGI_FAQs_JP.pdf

【出典】
※1 「気候変動の時限爆弾」、惨状回避の時間切れ迫る 国連報告書が警鐘https://www.cnn.co.jp/fringe/35201527.html
※2 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第60回総会の結果 についてhttps://www.env.go.jp/press/press_02665.html
※3 IPCC AR6 統合報告書 政策決定者向け要約(SPM)暫定訳(2023年11月版)
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/IPCC_AR6_SYR_SPM_JP

WRITING BY

Ayaka Toba

編集者・ライター

新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。北欧の持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、タイでPermaculture Design Certificateを取得。サステナブルな生き方や気候変動に関するトピックスに強い関心がある。