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CULTURE

5分でわかる。アメリカ出身のローマ教皇・レオ14世はどのような人物か?

5分でわかる。アメリカ出身のローマ教皇・レオ14世はどのような人物か?

バチカン現地時間の2025年5月18日午前10時、聖ペテロ大聖堂でローマ教皇就任ミサが執り行われ、ロバート・フランシス・プレヴォスト枢機卿が第267代ローマ教皇に就任、ローマ教皇レオ14世が正式に誕生した。

日本の麻生太郎元首相を含む世界各国からカトリックの要人を集め、20万人以上の群衆を前にカトリック教会の一致と世界平和を訴えたレオ14世の誕生は、アメリカのカトリックコミュニティに、ひいては世界のカトリック教会に、どのようなインパクトを与えるのだろうか。カトリックに関する基本的な情報などを含めてお伝えする。

アメリカ生まれのローマ教皇レオ14世

レオ14世本名ロバート・フランシス・プレヴォスト(Robert Francis Prevost)氏は、1955年9月14日にシカゴで誕生した生粋のアメリカ人だ。フランス系イタリア系移民の家系出身の父とスペイン系移民の家系出身の母との間に生まれた典型的なカトリックアメリカンと言っていい人物で、聖アウグスティヌス修道院高等部を経てペンシルバニア州のカトリック系大学ビラノバ大学で数学の学位を取得したインテリだ。

ビラノバ大学入学と同時にセントルイスの聖アウグスティヌス修道会にも入会し、キリスト者としての献身生活を開始している。その後シカゴのカトリック神学会からローマの聖トマス・アクィナス大学へ留学し、1982年にローマで神父に任命されている。

そして1985年に聖アウグスティヌス修道会使節団の一員としてペルーのピウラに送られ、ペルーの各地で20年の長期に渡って聖職者として働くことになる。ペルーでの献身ぶりは地元民から高く評価され、2014年にペルーのチクラーヨ地区の司祭に任命されている。同年、プレヴォスト氏はペルー国籍も取得している。

教皇レオ14世の誕生は「教皇第二の母国ペルー」でも大きく報道され、各メディアが「ペルーからローマ教皇が誕生した」として国民の大きな喜びを伝えている。なおレオ14世は、アメリカ人としては非常に珍しく、英語、イタリア語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語の五言語を話すマルチリングイストだ。

ローマ教皇とはどういう人か?

Pope Gregory I (c. 540 - 604) commissioned Augustine of Canterbury (? - 604) to evangelize Britain. The mission was successful, and it was from England that missionaries later set out for the Netherlands and Germany.  Wood engraving from the book "Geschichte des Reiches auf Erden Gottes oder Christliche Kirchengeschichte (History of the Kingdom of God on Earth or Christian Church History)" by Hermann Rolfus, published by Herder'sche Verlagshandlung, Freiburg in 1883.

ところで、ローマ教皇とはどういう人であるかについておさらいをしておこう。ローマ教皇は、ローマ・カトリック教会の最高位に位置する指導者で、「ローマの大司教」とされる人物だ。イエス・キリストの一番弟子のペテロから代々引き継がれ、歴代のローマ・カトリック教会を率いてきた最高指導者でありバチカン市国の首長だ。全世界のカトリック教会の頂点に立つ、初代ペテロの地位を今なお継承する人物である。

キリスト教は歴史的にローマ・カトリック教会、プロテスタント教会、東方正教会の三教派に分類されるが、ローマ・カトリック教会はもっとも歴史が古く、規模が大きい。キリストの直命を受けた直弟子を始祖とする、今日に至るまで綿々と続いている「キリスト教の本家」と呼ぶべき世界最大のクリスチャンコミュニティだ。

バチカンニュースによると、2023年時点の全世界のカトリック人口は約14億600万人で、2022年から1.15%増加したという。カトリック人口は、近年ではコンゴ、ウガンダ、タンザニアなどのアフリカ諸国で増加しており、今後もさらなる増加が見込まれている。なお、日本にも比較的古くからカトリックが存在しており、カトリック中央協議会によると、2023年時点の日本のカトリック信徒数は41万2330人で、日本の全人口の0.329%だそうだ。

アメリカのカトリック

Blown out white candle with smoke in front of male hand with rosary on black background, the extinguished candle symbolizes the last prayer for a deceased person and belief in life after death.

アメリカのカトリック人口については、調査機関によって数字に違いがあるが、アメリカの全人口の18.7%から23.1%程度がカトリックであるとされる。アメリカの調査機関ピュー・リサーチセンターによると、2024年時点でアメリカの18歳以上の成人人口2億6700万人の24%がカトリックであるとされている。カトリックは伝統的に子供に幼児洗礼を授けるので、子供を含めたアメリカのカトリック人口は7000万人程度と推定される。大雑把に言ってアメリカ人の五人に一人がカトリックであるとしても問題ないだろう。

人種別ではアメリカのカトリックは白人がもっとも多く、全体の54%を占めている。ヒスパニックが36%で次いで、両者合わせて90%となっている。レオ14世が生まれた家庭のようなフランスやイタリアといったカトリック国からの移民の家庭に生まれた白人カトリックと、メキシコや南米カトリック諸国などからのヒスパニックの移民がアメリカのカトリックの大半を占めている。なお、ヒスパニックのカトリックはカリフォルニア州を含むアメリカ西部地区に多く、地区全体の58%を占めている。

アメリカのカトリックコミュニティは、各界に人材を輩出している。アメリカのカトリックで最も有名なのはアメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディ氏だろう。アメリカでは大物政治家にカトリックが多く、前大統領のジョー・バイデン氏や、現副大統領のJ.D.ヴァンス氏、現国務長官のマルコ・ルビオ氏などがカトリックだ。また、現大統領夫人のメラニア・トランプ氏や、元下院議長のナンシー・ペロシ氏もカトリックである。

政治家以外ではハリウッドスターのメル・ギブソン、ジョージ・クルーニー、レオナルド・ディカプリオ、映画『ゴットファーザー』で主演したアル・パチーノがカトリックだ。また、アーティストのレディーガガ、ブルース・スプリングスティーン、ジョン・ボン・ジョヴィや、NBAスターのコービー・ブライアント、NFLスーパースターのトム・ブレイディ、メジャーリーグの元祖二刀流ベーブ・ルースもカトリックだ。

アメリカのカトリックは、アメリカという国の社会や文化を構成する重要で必要不可分な存在であり、政治的・社会的にも無視できないプレゼンスを有している。

レオ14世は世界のカトリック教会をどう導くのか

そんなアメリカのカトリックコミュニティから第267代ローマ教皇が誕生したのだが、レオ14世は世界のカトリック教会をどう導くのだろうか。

カトリック神学者の間で早速話題になっているのが、レオ14世が、レオ13世が1891年に出した回勅Rerum Novarum(レールム・ノヴァールム)の方向性を踏襲する可能性だ。「レールム・ノヴァールム」とは「新しいことがらについて」という意味で、「資本と労働の権利と義務」という副題が付けられている。「レールム・ノヴァールム」の方向性を踏襲するとは、富の格差や遍在などに象徴される現代世界の経済問題に対してカトリック神学的アプローチによる解釈や解決を試みるということだ。例えば、仮想通貨やAIの台頭による労働市場・経済環境の変化などについても、より具体的で突っ込んだ意見が出されるものと予想されている。

またレオ14世は、低賃金労働者や移民などの社会的弱者に対する慈悲深い人間性でも知られている。移民に寛容的なレオ14世の誕生は、右傾化が進む世界中のカトリック国に相応の影響を与えることになるのは間違いないだろう。特に移民排除のトレンドが広がるヨーロッパの主要カトリック国のフランス、イタリア、ポーランドなどに与える影響については注視すべきだろう。

一般的な予想としては、レオ14世はフランシスコ前教皇の「改革路線」を引き継ぎつつ、少しずつ、しかし着実に自分の色を出してゆくことになると思われる。筆者が個人的に特に関心を持っているのは、カトリック教会における女性の地位の問題だ。女性の幹部登用などに積極的であるとされるレオ14世が、男性社会の伝統を守り続けているカトリック教会でどこまで女性の登用を進めるのか興味津々だ。レオ14世は、「改革」「社会的弱者への慈悲」「女性の登用」といったキーワードとともにローマ・カトリック教会を導いてゆくことになりそうだ。

参考文献

https://www.vaticannews.va/en/pope/news/2025-05/biography-of-robert-francis-prevost-pope-leo-xiv.html
https://www.bbc.com/news/articles/cewdl4e57v7o
https://www.britannica.com/topic/Roman-Catholicism
https://www.vaticannews.va/en/vatican-city/news/2025-03/pontifical-yearbook-2025-priests-religious-statistics.html#:~:text=The%20global%20Catholic%20population%20increased,that%20of%20the%20previous%20biennium
https://www.cbcj.catholic.jp/wp-content/uploads/2024/09/statistics2023.pdf
https://www.usreligioncensus.org/sites/default/files/2023-05/RRA%20Catholic%20presentation.pdf
https:// www.pewresearch.org/short-reads/2025/03/04/10-facts-about-us-catholics/
https://www.weblio.jp/content/%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%A0%E3%83%8E%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%A0
https://www.magisterium.com/tr/catholic-news/pope-leo-xiv-s-potential-M0XbKr
https://abcnews.go.com/International/pope-leo-xiv-views-compare-pope-francis/story?id=121606314

WRITING BY

前田 健二

経営コンサルタント・ライター

事業再生・アメリカ市場進出のコンサルティングを提供する一方、経済・ビジネス関連のライターとして活動している。特にアメリカのビジネス事情に詳しい。

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