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CULTURE

文化的AIの導入書 ー星読みや花の名前や、料理のレシピについてー

Young man in sport's clothes cleaning glass for smoothie in a domestic kitchen at home

AIについて日々思索していた筆者は、ある日美しい庭で初老の女性が花に携帯をかざし、写真を撮ってAIに花の名前を訊ねているところを見た。
その瞬間は、美しい植物たちとAIという対比も相まって、わたしの記憶に何故か非常に焼き付いた。

咲く花の名前を知らない時、Shazamのように今撮った写真でAIにその種類を訊ねる。そんな便利で生活に近く、そして新しい使い方に、どれくらいの年代の人々までが辿りついているだろう。
このような日常的な利用は些細な行為に見えるが、実際には生成AIが社会にどの程度浸透しているのか、また誰がその恩恵にアクセスしているのかという問題を直感的に浮かび上がらせている。

その恩恵を誰が受けているか

生成AIの利用は一見すると全年齢に急速に普及しているように見えるが、その内実にはすでに明確な格差が存在している。
OECDが2024年から2025年にかけて実施した調査では、学生層の利用率が約75%に達する一方で、退職者層では約12%にとどまり、世代間で大きなアクセス格差が確認されている。
その使い方にも差は広がっており、Pew Research Center(2024〜2025年)における一般ユーザー調査では、生成AIの主な用途は情報検索、文章生成といった実務的・補助的な機能に集中している。一方で、コード生成や業務への統合、エージェント的活用といった高度な利用は、特定の職種やリテラシーを持つ層に偏在している。
また近年テクノロジーの発展とアクセシビリティは必ずしも一致しない。例えばデジタル化されたチケット販売は利便性を高める一方で、デジタルアクセスを持たない人々を排除する側面も生まれている。G7各国も生成AIの主要な機会として「生産性向上」と「イノベーション促進」を挙げている一方、公共的利用への議論はまだ限定的である。
AIとテクノロジー発展の恩恵の深さと広がりには依然として大きな階層差が存在する。AIはすでに「誰でも使える技術」であると同時に、「どの人々がどう使えるかによって、享受できる価値が分岐する技術」となりつつあるようだ。
では、だからこそ今、AIを生産性という価値観のみならず、より身近で公共性のある、文化的な存在として捉え直すことはできないだろうか。AIによる社会構造の変化がよりダイナミックに進むことを考えると、誰もが取り残されない形で実社会に組み込む方法を考えるべきではないだろうか。
本稿では、テックパーソンに限らない人々による、生活の中のAI利用の例を通して、より”公益的なAI”の使い方を模索してみたい。

星読みは人生の物語

Senior man and young man engaging in a strategic game of chess at home, enjoying leisure time and inter generational bonding while concentrating on their next moves

AIで占星術をしてもらう人が筆者の周りで増えている。

これは実際に統計的に増えているかどうか、という統計的実証があるわけではないが、ChatGPTの利用者は全世界1年間で5億人規模とされているなか、占星術アプリ市場は同じく世界的に非常に大きく、アメリカ発の占星術アプリ「Co-Star」には3000万ユーザーが登録している。

またインドのAI占星術サービスでは全相談の約30%がAIチャットボット経由で行われており、占星術利用者の4割前後がAI占星術を利用しているという。そのためChatGPTやClaudeなど汎用AIに占星術を聞いたことがある人は、世界全体では少なくとも数百万人、場合によっては数千万単位で存在するだろうと想像できる。

西洋占星術の出生図(ホロスコープ)は初心者が読もうと思っても非常に難解で、何が書いてあるのか分からない。専門知識を用い、占星術のルールに基づいて読み解くものであり、またそのルールも非常に規則的かつ専門的だ。

ルールと前提条件による組み合わせ、というのは、AIにとって最も得意な分野だろう。
また一般の人が占星術師を実際に訪ねることにはややハードルがあるが、AIに聞ければ間口も広く、誰もが「ちょっとやってみよう」と思える。

ここで面白いことに、ChatGPTにユーザーの傾向を訊ねると、多数の人が占星術を使って、インドで重宝されてきたような「結婚式の日取りはどうか」「次の宝くじは何か当たるか」といったことを聞いておらず、「自分」について分析をしていると言う。
そもそもAIによる占星術は”よく当たる”と感じやすいが、統計学的な実証がされている訳ではない。しかしグスタフ・カール・ユングは占星術を「因果関係」ではなく「象徴の体系」として整理し、人は象徴や物語を通して自分自身を理解すると説いたように、占星術は未来予測装置ではなく、神話と物語による自己分析のツールであるとも言えるだろう。

AI時代、テックの高速進化の中で、こうしたいわばスピリチュアル的とも言える自己内省の動きがAIユーザーの中で起こっていることは興味深い。
AIにライティングをさせ、エージェントに営業させて効率化を追及するような資本主義的な用途でもない。ユーザーの手元を離れてどこかわからない企業の中で、数か月後のあなたの仕事を置換し奪うような進化を遂げているような、そんな資本家の手の中にあるものではない。純粋に人々のためだけに使われるやや魔法的なAIの作法の中に、真に人々の生活に根ざしたAIの在り方のヒントがあるように思える。

あなたの思考と身体に介入する

Young student woman sitting on ground at the university library

他にどんな「文化的AI」の使い方があるだろう。
その1つが、生活に密着し、人間の身体に働きかけるような用法だ。

ハリウッドと中国で活動する俳優のマット・ウィリアム・ノウルズから筆者が聞いた話は興味深い。AIで「自動書記」をしていると言う。
彼は頭の中に言葉が散らばり、自分の意思とは別に思考が溢れ出す、という自認があるという。
そこで、自分の頭に浮かぶ言葉を可能な限りそのままタイピングし、それをAIに整理・分析してもらうよう依頼しているという。
自分の身体的な特徴理解に対し、AIというツールの補助を得て内省したり解決を目指したしたりヒントを得ようとする使い方は初めて聞いたし、とても印象に残った。

またAIを片付けに使っている人も多い。2024〜2026年にかけて急速に広がった利用法の一つだ。

使い方としては、部屋の写真をAIに送り、片付けタスクを生成させ、細分化されたタスクを実行し、写真を撮りながら生成と片付けを繰り返す。
従来の片付け本や収納術には大きな弱点があり、自分の部屋に当てはまらない、どこから手を付ければいいかわからない、判断するだけで疲れるといった点で、片付けが苦手な人は結局何も手がつけられなくなりがちだった。そこにAIを使えば、例えば「部屋を片付ける」ではなく「左側の床の服だけ拾う」に変換できる。これは実行機能(executive function)の補助として非常に有効だ。

同じような使い方で、料理のレシピを訊ねるユーザーも増えているようだ。
ネットや書籍に膨大に散逸しているレシピはどれが今すぐ手持ちの材料で作れるか、どれが1番美味しく作れるか、料理好きでなければ判断するのは難しい。選択や思案という工程に阻まれやすい情報のひとつだ。
そこでユーザーたちは冷蔵庫の残り物の写真をAIに渡し、そこからレシピを提示してもらうという。
また足りない調味料の代替として何が使えるかなど、料理に対する集合知を簡単に引き出せ、自分の状況に当てはめられることも特徴だ。
人間の日常動作である調理にアクセシビリティと多様性、そして更なるおいしさの追求というプラス効果をもたらしていることは、AI普及後の大きな変化だろう。

公共に資する智慧

A thoughtful mature Japanese man sits quietly by a window on a rainy day, gazing outside. Dressed in a pink T-shirt and jeans, with natural light softly filtering through sheer curtains, the scene conveys introspection, solitude, and emotional depth. Ideal for themes of reflection, aging, and peaceful moments.

医療的見解をAIに相談するユーザーも増えており、生成AIが普及して以降、「症状の解釈」「受診先の選択」「病気についての不安相談」は、最も多い利用分野の一つになっている。
アメリカのメイヨークリニックによる記事によれば、米国では、成人の約8割が健康に関する疑問の答えを求めてインターネットを利用し、多くの人は複数のウェブサイトを閲覧する代わりに、検索結果の最上部に表示されるAI生成の要約から答えを得ている。そして世界全体では、5人に1人以上の成人が、ChatGPTやGeminiのようなAIチャットボットに直接健康上の質問をしている。速くて便利で、しかも無料だからだ。

興味深いのは、これは単に「Google検索の代替」ではないことだ。
以前の患者は、症状名が分からないため何科に行けばいいか分からず、医学論文や医療用語が難しいという壁があり、知識の得られる恵まれた人々だけがそこにアクセスできた。AIはそこの溝を埋め、「頭痛と吐き気がある」「歩くとふらつく」のような自然言語から、考えられる疾患や受診すべき診療科を整理してくれる。

これは実際、患者にとってかなり大きな変化で、実際に急な物忘れに不安を覚えた人がAIとの対話の中で、認知症ではなく鬱病の兆候ではないかという気づきを得て、AIの推薦の通り心療内科を受診したところ、最適な治療にアクセスでき、物忘れの症状が改善されたこともあったという。

こうしたAIの使い方は医療的な相談だけでなく、例えば資産運用や家庭の固定費の見直し、古民家の修繕方法、海外配送の仕方や、身近な事故の際の法律的見解など、筆者の周りの人々の中でも様々に広がっている。

プルラリティという詩性

こうした生活に密着した生成AIの利用とアウトプットは、「AIの公共性への還元」という観点で考えると、単に便利なツールが増えたというだけではなく、これまで一部の専門家や時間的・経済的余裕のある人々に偏っていた知識へのアクセスを、多くの人に開放するという社会的な意味がある。
これは、図書館や公教育が知識を公共財として提供してきたことに少し似ている。

ただしAIの場合は、膨大な情報を個々人の状況に応じて整理し、対話を通じて提供でき、単に情報を公開するだけでなく、「その人が理解し、使える形に変換する」役割を果たしている。
AIの情報を鵜呑みにしないというリテラシーは重要だが、少なくとも知識への入り口を広げ、情報格差を縮小するという点で、大きな公共インフラ的価値を持っているだろう。

オードリー・タンは、グレン・ワイルとの共著、『PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義』の中で「テクノロジーは人間や民主主義を代替するものではなく、多様な人々の協働を促進するための社会的インフラである」という考え方を示している。

タンが提唱する「プルラリティ(Plurality)」は、単なる「多様性(diversity)」よりもずっと大きな概念で、問題を解決するのは一つの超知能ではなく、多数の異なる人間やコミュニティの協働であるという考え方である。
これは単一の超知能を追求するシンギュラリティの方向性とは大胆に一線を画している。
プルラリティを選び取る、というポジティブかつ主体的なオードリー・タンの姿勢は、この利益追従型のテクノロジードリブンな世界で、一点の眩い希望に見える。
 
AIは私たちの知識を堆積したものを吸収し、ここまで進化を遂げた。
それは元来私たちのもとにあったものであり、これからも私たちのもとに当然の還元されるべきだろう。
一部の知識層だけがエージェントを立てて人間の肩代わりをさせるだけではなく、時折私たちの生活の中にAIを引き戻そう。
掃除や料理に活用し、見知らぬ花や虫の名前を聞き、自分の考えを整理してみよう。知らなかった知識をわかりやすい言葉で理解し、明日に活かしてみよう。

AIは私たちのこれまでの”叡智”の集合体であり、私たちの実生活と社会を自分たちの選択次第で豊かにさせるものだ。
今もこれからも、AIは私たちのために在る。

参考資料

Can you trust AI for health advice?
Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/consumer-health/in-depth/can-you-trust-ai-for-health-advice/art-80010355

Many in U.S. consider AI-generated health information useful and reliable. Annenberg Public Policy Center. https://www.annenbergpublicpolicycenter.org/many-in-u-s-consider-ai-generated-health-information-useful-and-reliable/. Accessed Feb. 10, 2026.

Yun HS, et al. Online health information-seeking in the era of large language models: Cross-sectional web-based survey study. Journal of Medical Internet Research. 2025; doi:10.2196/68560.

What doctors wish patients knew about using AI for health tips. American Medical Association. ama-assn.org/practice-management/digital-health/what-doctors-wish-patients-knew-about-using-ai-health-tips. Accessed Feb. 17, 2026.

AI in healthcare: Can a chatbot answer your medical questions?
Harvard Health Publishing
https://www.health.harvard.edu/preventive-care/ai-in-healthcare-can-a-chatbot-answer-your-medical-questions

PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来
オードリー・タン, E・グレン・ワイル,
ライツ社, 2025年

赤の書
カール・グスタフ・ユング
創元社,2014年

WRITING BY

伊藤 甘露

ライター

人間、哲学、宗教、文化人類学、芸術、自然科学を探索する者

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